No.5 幸せ🔞

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No.5「幸せ」🔞 登場人物名 ・受け キース……次期国王秘書。オメガ。 ・攻め レオン……次期国王。アルファ。 ・その他  ベン………………レオンの部下でキースの親友。オメガで、ロイドの番。  ロイド……………騎士団長でレオンの幼馴染。アルファで、ベンの番。 「キース、俺の子を産んでくれ。」 「……はい?」 俺は今、阿呆な顔をしているだろう。 突然レオンに言われた言葉は、次期国王秘書として厳格な態度を取っている俺を、一瞬で崩すような言葉だった。 「……上から、指示が下った。俺の後継者を作る為に、オメガのお前と子を生せ、と。」 あぁ、こんな屈辱があるものか、と。 レオンに告げられた言葉で、絶望した。 だが、彼が俺に渡してきた書類には、本当にそう書かれてあって。 2年間の、俺のサイン以外は全て埋められた休職届けと、レオンと結婚し、番になって子を生せと書き記された書類。 拒否権はないのかと、渡された書類に溜め息を吐いた。 「……はぁ。分かった。いつから?」 「婚約も結べといわれているから、遅くても一か月後だ。……すまない。」 「レオンのせいじゃないだろ。謝んなよ。」 上は、優秀な後継者が欲しいのだろう。 この国最強と謳われるアルファのレオンと、オメガであるにも関わらず実力でここまで上り詰めてきた俺。 単純だが、俺たちの遺伝子を足せば更に優秀な人材が出来るのでは、とでも考えたのだろう。 ……胸糞悪い。 「…じゃあ、この1ヶ月で引継ぎを終わらさないといけないな。」 「本当に、すまない。」 「だから、お前が謝んなって。」 苦しそうな顔をして俺に謝るレオンに、俺まで泣きそうになってしまう。 レオンは何も悪くないのに、俺に対して罪悪感を抱いているのだろう。 これは、仕方のない事なのに。 「………いつから、する?子供は天からの恵みだから、いつできるかは分らんよな。」 「……大々的に結婚式をする予定らしいから、その次の日から、にしようか。」 「分かった。それまでには準備しとく。」 逃げられないように、大々的に結婚式を挙げるのだろう。国民にも、知れ渡る様に。 本当に、胸糞悪い。 親友で俺と同じオメガのベンに聞けば、準備の仕方を教えてくれるだろうか。 色々と聞かれそうだが、彼なら、理解してくれるだろう。 ……慰めても、くれるだろうな。 それから、一か月後。 俺の仕事は別の人に引き継いでもらい、ベンに準備の仕方を教えてもらい。 ……今日はレオンと俺の、国を挙げての結婚式だ。 「……キース。苦しかったら、逃げてもいいんだよ。」 白いタキシードに着替えて最終チェックをしている最中に、手伝いをしていたベンにそう言われる。 俺は彼のその言葉に泣きそうになりながらも、精一杯笑った。 「逃げるのは、最終手段にする。例え上からの指示でも、あの人になら……」 相手が、レオンで本当に良かったと思っている。 俺が唯一尊敬し、忠誠を誓い、そして……愛した人だから。 だから、逃げることができずに今日まで来てしまった。 俺の言葉に、悲しそうに眉を下げてベンが見上げる。 そして、ゆっくりと背を優しく撫でて、立ち上がった俺を後押しするかのように、背を押してくれた。 「……いってくる。」 「…いってらっしゃい。」 待機室のドアを開け、レオンのいる聖堂の方へ、覚悟を決めて歩き出した。 その日の、翌日。 風呂に入り、準備まで終わって、与えられた部屋のベッドの上に座っていた。 強制的に発情期を迎える薬を国王から渡され、それも飲んだ。 レオンは、今風呂場にいる。 「………はぁ。」 緊張と、恐怖と。 ソワソワして、心臓が落ち着かない。 先程までは部屋をうろうろとしていたが、することも無いためベッドの上にあがり、膝を抱えていた。 「……怖い、なぁ…」 怖い。 今からする行為が、怖い。 自分の気持ちを吐露してしまわないか、怖い。 自分の体に子を生す事が、怖い。 全てが怖くて、震える体をぎゅっと抱きしめる。 キィ、とドアノブが回る音がして、体が跳ねた。 顔を上げると、ドアの前にレオンが立っている。 ゆっくりと静かにドアを閉めて、俺のいるベッドへと歩いてきた。 「……キース。」 「ッ……」 名前を呼ばれて、傍まで来たレオンの顔を見上げる。 恐らく今俺は、とても情けない顔をしているだろう。 怯えた様な、泣きそうな、そんな顔をしているのだろう。 「……泣くな。」 レオンが眉尻を下げて、困ったような顔をする。 そして、俺に片手を伸ばした。 「ッあ………」 レオンの暖かい手が、俺の頬に触れる。 目元を親指で優しく撫でられ、そして、彼が背を屈めた。 「ッ、」 キスをされるのかと思って目を閉じると、額に柔らかいものが触れる。 前髪の上から、額にキスをされた。 「…怖いか?」 「……こわ、ぃ。」 怖いと言い震える俺の体を、レオンが強く抱きしめる。 「………一生、大切にする。お前が嫌がることは、絶対にしないから。」 「……ん。」 彼の体が離れていくと思うと、肩を掴まれて優しくベッドへと倒される。 そして、レオンもベッドの上に登った。 「……いいか?」 「……」 バスローブの紐を外されて、素肌が露出する。 とても怖いが、レオンの言葉にゆっくりと頷いた。 頷いた俺を見て、レオンは俺に体を近づける。 するり、と頬に手をあてられ、また額にキスをされた。 「ッあ……は、ッ」 薬が、効いてきたのだろう。 段々と頭の中に靄がかかったかのように、白く染まっていく。 眼鏡はとっくに外していたが、近くにある筈のレオンの顔がぼやける。 「……ヒートか?」 「ッ、ん……」 「………薬飲んだな。お前のヒートはまだ先だろう。」 そこまで覚えているのか。 本当に、仲間の事をよく見ているんだな。俺が抑制剤を飲んでいた日を、覚えているなんて。 確かに、俺の発情期はあと1ヶ月先だ。 「……上に、渡されて…」 「チッ……残っているものは、全部捨てろ。お前の体に良くない。」 「ぁ、わ…わかった。」 機嫌を悪くしてしまったようだ。 眉を寄せて舌打ちをしたレオンに、上から渡された薬を全て捨てろと言われた。 「ッん、ん……ッッ」 レオンの手が、俺の素肌に触れる。 心臓近くに手が触れ、ぴくりと反応すると彼の手がするすると下まで降りていく。 薬のせいでピクピクと体が震え、怖くてレオンの胸元に縋りついた。 「……怖いのなら、首に腕をまわしておけ。」 「ッ、ん。」 言われるがまま、レオンの首に腕をまわす。 ぎゅっと強く抱きしめると、彼の手が下着を引っかけ、ずるりと降ろした。 近くにあったローションを手に取り、俺の尻に触れる。 「ッん、ぁ……ッッ」 ゆっくりと、ローションで濡れたレオンの指が押し入ってくる。 「…慣らしたか?」 「は、ん……ッッ、な、なら、した…ッから、はやく、」 「…そうか、ありがとう。」 俺のフェロモンの反応してか、レオンからもくらくらするような香りがし始める。 それに充てられて、更に気分がふわふわとしてくる。 「は、ッ…は、はーッッ…」 「……は。お前のフェロモンは、強いな。飲み込まれそうだ。」 スー、と首筋で匂いを嗅ぐかのようにレオンが息を吸う。 は…と息を吐いた刺激でさえ、首筋に触れビクビクと体が震える。 ……駄目だ。 オメガとしての本能が、目の前のアルファを求め始めている。 早く、早くレオンのモノが欲しくて。 俺の奥に、種付けしてほしくて、たまらない。 きゅうきゅうとナカがレオンの指を締め付け、彼が小さく笑った。 「はは、可愛いな。俺の指締め付けて…」 「ッい、いうな、ぁ…ッッ!」 ぐちゅ、ぐちゅと、ローションと俺の体内から分泌された愛液で、厭らしい音が鳴る。 彼の指を締め付ける肉壁も、早く欲しいと濡れはじめるナカも、全部が恥ずかしい。 それなのに、レオンがあんなことを言うから。 顔を真っ赤にして、言わないでと首を横に小さく振った。 「は、ぅ……ッッ、も、レオン、ッ…もぉ、はいる、からッッ!これ、あたまおかしく……ッッ」 頭が、おかしくなる。 何も考えられなくなりそうで怖くて、理性が残っている内に、彼のモノを入れて欲しかった。 愛した人に抱かれているのだと、実感したい。 例え上からの指示で仕方なく俺を抱いているのだとしても、この行為の間だけは、愛されているのだと思いたかった。 「ッ……分かった。」 ぐちゅり、と指が引き抜かれる。 抜かれた刺激でピクピクと体を震わせていると、熱くて硬いモノが尻に押し当てられた。 「ッあ……」 「……入れるぞ。」 レオンの言葉にコクコクと頷き、恐怖で彼を抱きしめる力が強くなる。 ぎゅうぎゅうと力いっぱい彼に抱きつくと、レオンのモノが押し込まれていく。 緊張と恐怖で体を固くしてしまい、俺を宥めるように彼がベッドから離れた俺の背を撫でた。 「ぁ、あ…あ、ッッ!ッぐ、ふ……ッッ、は、ッはー、ッは、ぁ……ッ」 「ッぐ……」 レオンの下生えが、結合部に触れる。 全て入ったのだと理解し、嬉しくて、埋め込まれたばかりのそこが彼のモノを締め付けた。 「ッッ……今、締まったな。」 「ッ、も……おま、ッしゃべんな、ッッ!!だ、まッて…さっさと、ぉッッ」 「あぁ、すまない。」 恥ずかしい事ばかり口にするレオンに、声を荒らげる。 さっきから、ナカが疼いて仕方がないのだ。早く動いて欲しい。 「…動くぞ。」 「ッん、ぁ…あッッ…は、ぁッ…ッふ、んン゛ッ…」 ずる、とレオンのモノが抜かれる。 ギリギリまで抜かれ、先が尻穴に差し掛かったところで、またゆっくりと奥まで押し込まれる。 何度かそれを繰り返している内に、段々と彼のフェロモンが強くなり始めた。 「は、はッッ…な、これッ、ぁッッ…!は、ゥ…んッ…あ、あ゛ッッ…!」 「ハ……止まらなく、なりそうだな。」 もう、あまり考えることができない。 息を吸う度にレオンのフェロモンを吸い込んでしまって、頭の中が真っ白になっていく。 ぐちゅ、ぐちゃ、と下から音がして、レオンのモノが肉壁に擦り付けられて腰が跳ねる。 治まらない快楽が怖いが、それよりも気持ちが良くて。 レオンに抱きついたまま、自分の口から溢れる声を抑えようと必死になった。 「は、ッ…ん、ん゛…ふ、ッ…ふーッッ、んぁ゛、あ゛ッッ!?」 下唇を噛んで、レオンの動きで溢れてしまう声を抑えていた。 すると、レオンのモノがナカのしこりのようなものを掠める。 その瞬間、ガクガクと腰が震え、自分のものではないような、高い声が漏れた。 「ッあ、や…ッッ!!だめ、そこだめッ…れッ、れおんッ!!」 「ココが、前立腺か。ッは……フェロモンが、強くなったな。」 「や゛ッッ……いやだッ、てぇッ!そこやッ…いやだ、ッ…れおん、ッッ!!」 俺が反応してしまった所を、レオンが彼のモノの先でぐりぐりと押し潰される。 カクカクと腰が浮き、強い刺激に目を見開いて喘いだ。 「あ゛ッッ…だめだッて、ぇッ!!それだめ、ひ、んッッ…おかし、おがじッッ…れおん、ぁ゛ッッ!!」 「ッ……すまん、とめられない……ッッ」 前立腺、と言われた場所をぐりぐりと刺激され、触れてもいないのに射精しそうになる。 レオンが俺の背にまわしていた手で、腰を掴んだ。 「あ、あ゛ア゛ッッ!ま、ひギッ…れッ…れおん、あ゛ッッ…ふか、だめッ…それだめ、ん゛ッ!」 「はッ…キース、きーすッッ」 「ふ、ぁ…あ゛ッ、だめ、ぃやだ、もッッ…やだ、ぁッッ!!」 ごちゅん、と一気に奥を突かれて、一瞬目の前がチカチカと白く染まる。 強すぎる刺激に身をよじって逃げようとしたが、レオンはそれを許してはくれない。 がっしりと腰を掴まれたまま、ギリギリまで引き抜かれて、更に奥へ入ろうとしているかのように突き上げられる。 「はーッ、ぁ゛う、あッッ…や、だ…だめ、も……ッッ!」 ぐちゅん、ごちゅんとレオンに奥を突かれて、何度も視界が白く染まる。 何も考えられなくて、声を抑えようとしていた事すら忘れた。 口も開きっぱなしで、俺のモノではないような高い嬌声が、部屋中に響いた。 「あ゛ッ…ひ、ぁッ!ぁんッ…れお、ぅッ…れッ、れお、ッ…あ、んッッ…きもち、は、ッ…きもち、ぃッ!」 「あぁ…は、気持ち、いいな…ッ」 「ッッ~~!だめ、ぇッ……だめ、これだめ、ッ…きもち、とまんな、ッッ……ふ、う゛~~ッッ!」 奥を突かれながら、レオンが俺の首筋に顔を寄せる。 本能的に逃げようと彼の首から腕を離して、胸元を押した。 だが、レオンは俺の腰から手を離し、胸元を押す腕ごと俺を抱きこんでしまう。 彼の口が大きく開かれ、首筋に歯を突き立てられた。 「あ゛ッッ!だめ、だめだめ、ッや、あ゛ア゛ーー~~~ッッ!!」 ガリ、と音が鳴る程強く噛まれる。 その瞬間、ぐぼ、と奥のその先にレオンのモノが入り込んだ。 オメガの体の特徴である子宮に入ったのだと、まわらない頭でも理解する。 彼のモノが子宮に入り込んだ瞬間、目の前も、頭の中も真っ白になって。 ずん、と腰が重くなり、カクカクと腰を揺らして、一切触れていない俺のモノから白濁が飛んだ。 レオンに抱きこまれたままだったせいで、吐き出した精液は彼の服と俺の腹を汚す。 「ひ、ひィ゛ッ…!ぅあ、あ゛……ッッ」 「ッはー、」 腹のナカが、熱い。 奥にレオンの熱いモノが吐き出されて、じわじわと熱が広がっていく。 普段鍛えている筈の俺が、体力の限界を感じている。 腕にも力が入らず、彼の胸元を押していた腕から力が抜けた。 「……は、はッ……キース、すまん。」 「は、ッ……ぁ、あ゛…ッ!?」 耳元で一言謝られて、ぼんやりとしていた頭にガツンとした刺激が走る。 焦点の合わない視界で彼を見上げると、ようやく見た彼の顔は、とても熱を持った厭らしい顔をしていて。 俺で興奮しているのかと、嬉しくなってしまった。 「ッッ……は、また締まったな。」 「ッあ……!ぐゥ、ッ…れおん、ッッ……!」 ゆらゆらとレオンの腰が動き始め、再び快楽へと引きずり込まれていく。 もう体に力が入らなくて、彼に揺さぶられるまま、ベッドに四肢を投げうった。 「お一人で外出なさることは、禁止されています。」 部屋から出ようとすると、部屋の前に立っていた見張り兵にそう言われて、部屋へと押し留められた。 レオンと何度も性行為をし、数か月後に俺は腹に子を宿した。 医師に妊娠していると告げられると、すぐに別の部屋に移されて、部屋の前には見張り兵もつけられた。 逃がす気は無いのだと、上に言われているようなものだ。 唯一救いなのは、レオンも同じ部屋で暮らしている事だろうか。 彼は俺の体をいつも心配してくれ、俺に負担が掛からないように、尽力してくれた。 俺が部屋から出る条件は、レオンの直属の部下か騎士の誰かが付くこと。 レオンか、彼ら一緒であれば、部屋から出して貰えるらしい。 「はぁ。……ベンを、呼んでくれ。」 「ベン様ですね、畏まりました。」 ベンが来るまで部屋の中で待機しておこうと、ドアから離れる。 ベッドに座り、また溜め息を吐いた。 ……もう、こんな生活は嫌だ。 一人で外に出ることも出来ず、ほぼ軟禁されている状態はとてもストレスを感じる。 妊娠している事もあって、常に情緒が不安定であることも、辛い。 逃げ出したいと、何度も思った。 「…キース?来たよ。」 とんとんとん、とドアがノックされて、外からベンの声が聞こえてくる。 すぐにドアまで向かい、外へと出た。 「どうした?」 「気分転換したい。少しでいいから、外の空気吸いたい。」 「分かった。羽織るもの持ったらちょっと外出ようか。」 ベンが部屋の中に入り、カーディガンを取ってきて俺の肩に掛ける。 今度こそ見張り兵に通され、外へと出た。 「……じゃあ、いこうか。」 「おう、頼む。」 ベンに連れられて、彼の車に乗り込む。 前々から、計画していたことがあった。俺が逃げ出したいと弱音を吐いたときに、ベンが逃げようと言ってくれて。 彼も番がいる身なのに、俺が脱出する準備を手伝ってくれ、心配だからとついてきてまでくれるらしい。 彼が車のエンジンを入れ、城から出る。 そのまま遠くへ車を走らせ、簡単に俺たちは城から抜け出した。 「……は?キースが、脱走した?」 部下から報告を受けて、まず脱走という言葉に引っかかった。 彼は罪人でも何でもない。なぜ、脱走という言葉が使われたのか。 その後すぐに、キースがいなくなったことに驚いた。 話を聞くと、ベンと一緒に外に出たきり、帰ってこないという。 外でトラブルに巻き込まれたのかと、すぐに城下街に兵を出した。 結局、1ヶ月が経ってもキースは見つからず。 国王である俺の父親は相当お怒りのようだ。何度も俺が責められたが、あんな監禁しているようなやり方をするお前が悪いと、言ってやった。 ……だが、実際彼が追い詰められるまで気づかなかった俺の責任でもある。 置き手紙もされておらず、彼らがどこに行ったかも検討が付かない。 国外へは逃げていないようだが、それでもこの国は広い。 仕事をしながら探すには、限界があった。 「……矢張り、俺は好かれていなかったんだろうな。何も言わずに、出ていくなんて。」 「そうか?話聞く限り、監禁に近いやり方した上が悪いと思うけどな。」 騎士団長で幼馴染であるロイドがそう言って慰めてくれるが、気は晴れない。 もう彼は身重だ。寒い思いをしていないだろうか。体調は大丈夫だろうか。辛く、痛い思いをしていないといいが…… 「……探しに行く為の長期休暇、上に却下されたんだって?」 「あぁ。はぁ……どうしようか。」 「何だ、上なんて気にせず探しに行けばいいじゃないか。愛してるんだろ?」 「……あぁ。アイツを、愛している。」 なら猶更じゃないか、とロイドに言われてしまう。 だが、俺がキースを見つけたとしても、彼が俺の元へ戻ってきてくれるかは、怪しい所だ。 俺の事が嫌で、逃げ出したのかもしれないし。 「女々しい奴だな。いつもの威厳のあるお前は何処に行ったんだ?次期国王様。」 「…そりゃあ、好きな奴の事になると、俺もただの男だからな。お前は、心配じゃないのか。ベンは、お前の番だろう。」 「まぁ、俺は事前に聞いてたしな。流石に今いる場所は分からんけど。」 キースが俺を尊敬してくれている事は、昔彼の口から聞いていたから知っている。 だが、彼が俺の事を恋愛的な意味で好きかどうかは不明だ。 行為の最中でも漏らすことは無かったから、俺の片思いだろう。 「もしかしたら、キースはお前を待ってるかもしれないぞ?」 「……キースが?」 「そう。だってアイツ、監禁されてからレオンと離されなくて良かったって、何度も言ってたから。」 「ッッ……!」 ロイドの言葉に、驚いて彼を凝視した。 今まで、一度も聞いたことのない話だ。キースが、そんなことを言っていたのか。 「だから、ここまで耐えれたんだろ?まぁ、もう耐えきれなくなったみたいだけど。」 探しに行かなくていいのか?とロイドに言われる。 俺はその言葉に立ち上がり、上から返された休暇届をぐじゃぐじゃに丸めて、ゴミ箱へと投げ入れた。 ベンと城から逃げ出してから、2ヶ月が経った。 腹に子を孕んでから、9ヶ月。 あと1ヶ月近くで、産まれる。だが、時折兵士が俺らを探している様子が見えて、ずっと宿を転々としていた。 「キース、何なら食べれそう?昨日もあんま食べてないけど……」 「……果物、かなぁ。リンゴとかなら、食えるかも。」 「りんごな。買ってくるから、部屋で待っといてな。」 「すまん、ありがとうな。」 ベンに礼を言うと、気にすんなと言われてしまう。 そして、彼は宿の部屋から出ていった。 「………はぁ。」 大きくなった腹を、優しく撫でる。 こんな生活をしていて、大丈夫なのかと毎日のように思う。 ベンにも沢山迷惑を掛けているし、貯金はまだ余裕があるが、無くなったらどうしようか、とか。 この子を連れて、兵士から逃げることは可能なのだろうか、とか。 「………ごめんな、こんな俺が親で。」 レオンは、俺がいなくなって心配しているだろうか。 それとも、無理矢理番にさせられた俺がいなくなって、清々しているだろうか。 後者は絶対に無いと言い切れるが、彼が俺を好いているかなんて、分からない。 あの部屋に軟禁される前から、ずっと彼は俺の事を気遣ってくれたが。 それが罪悪感からくる優しさなのか、それとも…… 嫌な考えがぐるぐるとしていて、気持ちが悪い。 ベンが帰ってくるまで少し寝てしまおうと、座っていたベッドへと寝転がった。 「ッ、キース!!」 ベンの大きな声で、目を覚ます。 何事だと体を起こしと、買い物に行った筈の彼が何も持たずに部屋へ戻ってきていた。 「…あれ、どうかしたのか…?」 「近くに追手が来てる。逃げるよ。」 「ッッ……分かった。」 荷物は、いつでも逃げられるように車にほとんど積んでいた。 もう宿のチェックアウトは済ませたとベンから聞き、重い体を引きずって車へと乗り込もうとした。 「いたぞ!!」 「ッッ!!」 車までもう少し、という時に、大きな声が聞こえてくる。 それに驚いて、足がもつれてしまった。 「ッ、キース!!」 慌ててベンが俺を抱き留め、事なきを得る。 だが、俺が転びかけたせいで、兵士達においつかれてしまった。 「キース様、城にお戻りください。」 数人の兵士に囲まれて、逃げ場が無くなってしまう。 ここで捕まったら、あの部屋どころかレオンとすら離されて、監禁されてしまうだろう。 それだけは、嫌だ。 「……キース、俺がこいつら相手するから。キースは逃げて。」 「ッえ、だけど…」 「車、運転できるでしょ?俺は大丈夫だから。」 ほら、行ってと言われて背を押される。 じりじりとにじり寄って来た兵士めがけて、ベンがいつから持っていたのか煙幕を地面に投げつけた。 「ッ、ありがとう、すまん!」 「いいから、早く逃げろ!!」 真っ白に染まった視界で、兵士の側を走って通り抜ける。 腹が、重い。彼が相手をしている間に必死に走って、車へと乗り込んだ。 急いでエンジンを掛けて、アクセルを強く踏み込む。 ちらりとバックミラーを見ると、丁度煙幕が消える頃だった。 「ッ、ごめん、ベン。ありがとう。」 俺の為にここまでしてくれた親友に感謝をし、遠くへ、遠くへと車を走らせ続けた。 無我夢中で、車を走らせていた。 ふと気が付くと、そこには見覚えのある景色が広がっていた。 「……レオンと、出会った場所、か。」 俺の地元の近く。 盗賊に村ごと襲われて、もう家族も友人も死んでしまったが、俺だけが逃げ伸びて。 崖まで追い詰められて、ここで奇跡的に彼と出会った。 そして、初めて会った人に背を任せ、皆の仇を取ったのだ。 「………」 車から降りて、懐かしい地に降り立つ。 崖から見える景色は、昔とは変わってしまった。 滅んでしまった、俺の村が見える。 「………はぁ。これから、どうすればいいんだろ……」 頼りの綱だったベンも、もういない。 どうすればいいのか分からなくて、ふらふらと崖の近くまで歩いた。 そこから、遠い遠い地面を見下ろす。 「どうすれば、いいんだろうな。今更、帰る訳にもいかないし。帰ったとしても、どうなるかは目に見えてるし。」 今度こそ、外に出られなくなる。レオンにも、誰にも会えなくなるであろう事は、目に見えていた。 「……じゃあ、俺と遠くへ逃げるか?」 「ッッ!!」 突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。 一瞬、俺の願望かと思った。だが振り返ると、ちゃんと声の主が立っていた。 「ッッ……れ、レオン……?」 「戻りたくないのなら、俺と逃げよう。国外に逃げてもいいし、暫く経ってから城に戻ってもいい。」 「ッあ……な、んで……」 何故、彼がここにいるのだろうか。 レオンは城から離れられないだろうと、思っていたのに。 「お前に会いに来た。もしやと思ってここに来て、正解だったな。」 俺たちが出会った場所、と彼に言われて、覚えていてくれたのかと嬉しくなる。 ゆっくりと、レオンが俺に近づいてきた。そして、彼の手が俺の頬に触れる。 「体調は、大丈夫か?寒いだろう、車の中に戻ろう。」 「ッ……このくらい、なんとも……」 「そうか。……会いたかったぞ。」 頬に触れた手が離れていき、腰に回される。 そして、優しく、抱きしめられた。 「ッッ………ぉ、俺もッッ!あ、会いたかった…ッ」 彼が迎えに来てくれて、会いに来てくれて嬉しい。 人の前で泣くなんて、初めてだ。 情けなく、ぼろぼろと涙を流して彼に縋りつく。 「ぐす、うぅ゛~~ッ!レオン、れおん……ッッ!!」 「辛かったな、もう大丈夫だぞ。もう、大丈夫だ。」 俺を安心させるかのように、彼が優しく背を撫でてくれる。 泣いている俺の頬に片手で触れ、流れる涙を指で拭われた。 「伝えるのが遅れたが……キース、愛している。俺のパートナーに、なってくれるか?」 「ッッ!……ほ、本当に…?」 「あぁ、本当だ。これは上からの指示でも何でもない、俺の本心だ。俺の為に生きて、俺の為にその子を産んで欲しい。」 「ッッ~~~!!」 更に視界が歪んでしまう。 先程よりも泣いてしまった俺を、レオンが困ったような顔で見つめた。 「い、嫌……か?」 「ッ!嫌じゃない、嫌じゃない……ッッ」 嫌じゃないと、慌てて首を振る。 その言葉に安心したかのように、レオンがほっと息をついた。 「…良かった。俺が嫌で逃げたのなら、どうしようかと思っていた。」 「そんな訳、ないだろ…ッ!ずっと、ずっと好きだったのに……」 「ッッ…!はは、そうか。俺も、ずっと好きだったぞ。」 レオンの肩に顔を埋めて、涙が彼の服に染み込んでいく。 ぐずぐずと泣く俺を彼が優しく抱きしめて、また背を撫でられた。 「キースは、どうしたい?何年かしてから、国外まで逃げるか?」 今の状態で国外へ出ると、子供を産める場所がない。 だから、数年経ってから国外へ逃げるかと聞いたのだろう。 彼の肩から顔を離し、小さく首を横に振る。 「……戻る。城に、戻るよ。」 「……大丈夫なのか?」 大丈夫ではない。 だけど、あそこがレオンのいるべき場所だから。 ……先に戻っているであろうベンにも、礼をしたいし。 「…あの部屋は、嫌だから……レオンの部屋に、戻りたい。見張りとか、やめて欲しい。自由にさせて欲しい。」 「分かった。じゃあ、その条件を飲まないのなら国外に逃げるとでも言って脅すか。」 彼の言葉に、泣きながらクスクスと笑う。 今まで逆らえなかった国王を脅すなんて、その一人息子であるレオンにしかできないことだ。 「今度こそ、俺が守るから。次に逃げる時は、俺にも声を掛けてくれ。」 「ふはは、逃げる前提なのか…?」 逃げないでくれ、じゃなく、逃げるなら自分にも声を掛けてくれ、と言われる。 彼の言葉が可笑しくて、またクスクスと笑った。 「…分かった。次から、ちゃんとレオンを頼るよ。」 「そうしてくれ。」 彼の腕が、後頭部へとまわる。 優しく引き寄せられ、何をするのか悟って目を閉じた。 「ッ、ん……」 目を閉じると、唇に柔らかいものが触れた。 「ん、ッ…ん……」 「ん………帰ろうか、キース。」 「……おう。」 唇が離れていき、名残惜しさを感じる。 だが彼に手を引っ張られ、俺が乗ってきた車の助手席に案内された。 彼にエスコートされて、助手席へと乗り込む。 俺が乗ったのを確認し、レオンが運転席へと乗り込んだ。 城に戻ると、連行されるように兵に囲まれて、すぐに上に呼び出された。 少し怯えながら、だが絶対にレオンと手を離さずに、国王の元へと赴く。 レオンは言葉通りに俺と、俺の地位、人権を守ってくれて。 本当に国王を脅し、俺の監視を全て撤廃させた。 部屋も、レオンの部屋へと移された。 前の俺の部屋にあった荷物も全て彼の部屋に移し、いつの間にかベビー用品も追加されていて。 元々物欲のない彼の質素な部屋が、一気に生活感溢れる部屋へと様変わりした。 後から聞くと、ベビー用品は全て国王からの贈り物らしい。 俺を軟禁していたのも、心配で仕方なかったからだとか。 子供が生まれる時も真っ先に医務室へと来てソワソワとしていて、ただの孫馬鹿だったかとレオンと二人で笑いあった。 「それにしても、紛らわしい人だね。」 「……本当にな。」 城の庭で、5歳になった息子を元国王が追いかけて遊んでいるのを見ながら、ベンとそう話す。 立派な孫馬鹿となった元国王、俺の義理の父親に苦笑し、暖かい紅茶を口に含んだ。 今では、ママは厳しいからじいじが好き、と息子に言われるくらいだ。 「ここにいたのか、キース。」 「あ、レオン。仕事終わったのか?」 レオンの声が聞こえてきて、振り返る。 そこにはげっぞりとしたロイドもいて、レオンに扱かれたのかとキースと二人で笑った。 「お疲れみたいだね、二人とも。」 「つっかれた……ベン、体は大丈夫か?」 ロイドが疲れたと言いながらも、ベンの体調を気にする。 大丈夫、とベンは彼に笑って見せ、側に座るよう促した。 「予定日はいつだっけ?」 「あと3週間だよ。今日は体調いいけど、多分そろそろ部屋から出れなくなるかもなぁ。」 「もう1ヶ月切ったのか、早いな。」 ロイドが、大きくなったベンの腹を愛おしい目で見つめ、優しくなでる。 クスクスとそれにベンが笑い、彼も優しく自分の腹を撫でた。 「……キース、アイツももう大きくなったし……そろそろ。」 「ッッ……ふはは、いいよ。今度は女の子がいいなぁ。」 レオンの言葉に、恥ずかしがりながらも頷く。 嬉しそうに彼が笑い、側に立ったまま腰をかがめて、俺をぎゅっと抱きしめた。 「ありがとう、キース。愛しているぞ。」 「…ん、お…俺も。」 もう5年も経ったのに、まだ愛の言葉を告げるのは恥ずかしい。 頬を赤く染めて返事をすると、彼がおかしそうに笑った。
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