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刑期を終えて
峰村 崇は強盗傷害の刑期を終えて、久しぶりに帰郷した。
20歳のころ、大学のアルバイトで良い稼ぎがあるからと誘われるままにしたバイトが、強盗だった。
その日は誰もいないと言う事だったので、仲間と強盗に入ったのだ。
崇は生来真面目な性格で、強盗と聞いた時には、仲間を抜けようとしたのだが、個人情報や、家族の情報が雇い主に握られていて、抜けられない状況だった。
最近ではよくニュースで流される話だが、こんなことは昔からあったのだ。
若くて、認識の甘い学生が狙われる。
悪い大人たちは、自分たちは安全な所で身を隠す。
崇は27歳。
7年の刑期をつとめる間、郷里の両親からは、週に一度は手紙が届いていた。
父からは、罪は償っているのだから、堂々として地元に戻ってくるようにと書かれた内容が多かった。
母からは、刑務所の中にいても、自分でできるだけ身体には気を付けて過ごしてほしいと言う、心配する内容の手紙が多かった。
刑務所は郷里とは離れた場所にあったため、刑期をつとめ終わって、刑務所から出たときにも誰も迎えには来なかった。
崇たちを使って悪さをしていた大人たちも、みんな捕まっていた。
崇は郷里に向かって長い距離を移動し始めた。
途中で見る、懐かしい景色。大学に通っていた頃、帰郷する度に見ていた懐かしい景色は、実家に近づくにつれ、昔と全く変わらない姿を見せてくれるようになってきた。
実家のある駅に着いて、バスに乗ろうとして慌てた。
実家行のバス路線がが廃線になっている。
利用者が少なくなりすぎたのだろうか?
でも、手紙にはそんな事は何も書いてはいなかった。
崇は仕方なく、タクシー乗り場に行った。いつもの通り、タクシーは一台も客を待って停まってはいなかった。それほどの田舎なのだ。
駅から降りる客は、皆、実家から迎えが来る人間が多いため、タクシーが電車の客の為に待っていることはなかった。
こんなところも変わっていなかったので、崇はちょっと安堵して、タクシーの運転手に自分の実家の住所を告げた。
すると、タクシーの運転手は
「その住所、今はダムの工事で村全体が引っ越しましたよ。」
と、言うではないか。
しかし、最近の父母からの手紙の住所を確認しても元の実家の住所が記されている。
「とにかく、今言った住所まで。無理なら一番近くまで行ってください。」
崇は、運転手に告げると、周囲の景色を見ながら実家への道を走ってもらった。実家までは30分ほどかかる。
周りの景色は変わってはいない。
「ここら辺が一番近いかなぁ。」
そう、運転手に言われて、崇はタクシーを降りた。
見渡す限りの大きな穴が、崇の住んでいた村を飲み込んでいた。
その横では、ダムの工事をしているのだろう、ここまで静かだった、田舎の景色が分断されたように、重機の音や埃が山を削っている。
タクシーの運転手は、
「どうします?このまま戻るのならまっていますけど。」
と、声をかけてくれたが、崇はそこまでの料金を支払い帰ってもらった。
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