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たかしの持ち出した『俺達は三つ子なんじゃないか説』の話はいつの間にか終わり、気が付けば俺達は大好きなマック・ジョンソンの楽曲の中でどの曲が一番の名曲なのかという熱い議論を交わしていた。
だが、議論ともなると同じ名前の奴がそこに二人もいるとややこしいことになる。それにたかしが怒り出した。
「俺はたかしだけど、お前らは二人ともジョンソンでややこしいんだよ!お前ら、どっちかの呼び方変えねぇ!?あっ、そういや、フルネームは?俺は川島たかし」
確かに聞いてなかったな。それに俺は木村ジョンソンだと答える。
「木村ジョンソンね、なんか格ゲーにいそうでかっけぇな。それで、そっちのジョンソンは?」
「俺は――マック・ジョンソンだ」
――はぁっ!?
「ちょ、ちょっと待て、お前そんなに羨ましい名前だったのかよ!?てか、なんでマックじゃなくてジョンソンで呼ばれてるんだ?普通、アメリカとかだと名前で呼ばね?」
「ああ、でも俺は自分の名前がそこまで好きじゃないんだ。日本だと、なんだかファストフード店を想像してしまうだろ?だから、俺は日本ではジョンソンと呼んでもらうことにしているのさ」
それに黙っていられなかったのは、何を隠そうこの俺だ。
「お前、なに贅沢なこと言ってんだ!ふざけんなよ!俺なんて木村ジョンソンだぞ!俺達の大好きなマック・ジョンソンと同じ名前だってことをもっと誇って生きて行けよ!くそッ!羨ましいなぁッ!」
「ホワッツ!?ブラザー、どうした?何をそんなに怒っているだい!?」
「まぁ、俺はジョンソンが怒るのも理解できるかなぁー。マック、お前はちょっと欲張りすぎだ」
「マックって呼ぶんじゃねぇって言ってんだろブラザー!アーユーオーケイ!?」
俺達がそんなやり取りをしていると、俺とマックの後ろから「あれ、たかし?もう来てたんだ、久しぶり!」という男の声が聞こえた。
なんだ、友多きたかしの友達かと俺は思ったが、目の前に座っているたかしは何故かきょとんとしている。
「おい、たかし?お前の友達が呼んでるぞ?」
俺がそう言うと、たかしは顔の前で手を振って「いや、俺はたかしだけど……多分人違いじゃないっすか?」とその男の声に返す。
俺達が人違いという言葉にこれほど敏感になった日はないだろう。
咄嗟に俺とマックは後ろを振り返った。すると、そこには何か恐ろしいものでも見たかのように顔を青ざめさせた男が立っていた。
「た、たかし!?お前って、三つ子だったのかッ!?」
そう言って、たじろぎながら喫茶店の入り口の方へと後ずさりをして行くその男を俺達が目で追っていると、そこにカランカランというドアベルを響かせて一人の男がゆっくりと入って来た。
俺はその男の風貌を見て酷く動揺したが、それよりも先に何かの感情が爆発的に前へと押し出され、それが急速に喉元で言葉へと変化していくのを感じた。
それはこの場にいる2人も同じようだった。俺達3人は顔を見合わせると同時に頷き、人差し指の先をその男の胸元へびしりと向けた。
この感情が驚きなのか恐怖なのか、それはもはやわからない。だが、これだけは言える。今の俺達に、怖いものなど無いのだと――。
俺とたかしとマックは一斉に叫んだ。
「お前もそのネクタイかよッ!!」
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