俺とたかしとマックとネクタイ

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 成人式の会場は市営の公園の中にある大きなホールだ。  ホール前は広場となっていて、そこへ着くと、派手な衣装や袴や振袖に身を包んだ人達が踊ったり酒盛りをしたりでごった返していた。  それを避けながら俺は広場の中央へと足を進める。  俺は中学時代の友達とこの広場の中央に生えているシンボルツリーの前で待ち合わせをしているのだ。  何とか人を避けつつ目的の場所へと辿り着いた俺はスマホを片手にその友達を待っていると、「よっ!久しぶり」と急に声を掛けられた。  俺は友達が来たのだと思ってスマホから視線を上げたが、そこに居たのはなぜか親し気な笑顔を浮かべている見覚えのない一人の男だった。  「えっと……どちらさんでしたっけ?」  「またまたぁ~、それは冗談キツイって、たかしぃ~!」  昔の友人なんかと急にばったり街で会ったりすると瞬時に名前が思い出せない事はあるが、これは、そういうレベルじゃない。俺は、こいつを知らない。そして、俺はたかしではなくジョンソンだ。  「俺だよ!としあき!部活一緒だったのに忘れたのか?酷い奴だなぁ、お前は」  そんなたかしと俺を間違えているお前もなかなかだぞと俺は思ったが、としあきなんて名前、俺の知り合いには一人もいない。  やっぱり、このとしあきとかいう奴は俺とそのたかしという人間を見事に間違えている。完全なる人違いだ。この距離感でもその間違いに気付かないとは、たかしって奴は俺にどんだけ似てるんだよ……。  仕方ない、とりあえずこの哀れなとしあきに人違いだと教えてやるか。  「あの、人違いですよ?俺、たかしじゃ……」  と、俺がそう言いかけた時、としあきは何かに気付き大きな声を上げて手を振った。  「お~!みんなやっと来たか!こっちこっち~!たかしもここで発見出来たし、みんなで写真でも撮ろうぜぇ~!」  すると、周りには見知らぬ数人の男女が集まり始め、俺はあっという間にその男女に囲まれてしまった。  「え~!たかしじゃん、久しぶり~!あんた変わらないわねぇ!」  「おーたかしだたかし!久しぶりだなぁ、懐かしい~!昔、良くお前んちでスマブラやったよなぁ!」  「たかし?え、本当にたかしだぁ!久しぶりだけど、ねぇ、私の事覚えてる?」  今、俺の目の前では盛大な人違いが繰り広げられている。なぜここまでの人数が集まっていながら一人も俺がたかしじゃないことに気付けないんだ?  そう思った瞬間、急に背後から肩を叩かれ「おう、ジョンソン!久しぶり!」と俺は誰かに声を掛けられた。
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