最終章

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最終章

 三崎(みさき)(もえ)がその場所へ辿り着いたのはすべて終わったあとだった。  長身の浅野(あさの)明那(あきな)が包丁を振り下ろすと部屋全体が悲鳴を上げた。だが、建物内にいるであろう住人たちは一人も姿を見せない。  きっと誰かが通報している。  誰もがそう考えて嵐が去るのを巣穴の中でじっと待っている。萌は目を閉じた。胸を撫で下ろす穴熊たちの顔が浮かんだ。  ――みんないつもそうだ。見て見ぬ振り。  背後の扉が勢いよく開く。押されるようにして萌が立ち上がる。  飛び出してきたのはシャツを鮮血で染めた浅野だった。右手にはまだ包丁が握られたままだ。  二人の目が合う。 「俺、やっぱり戻らなあかん。雨夜(あまや)のとこに」  浅野のその言葉を聞いて萌は事実を伝えることにした。  彼が今まで見ていたものをすべて。  それでも、彼を止めることは叶わなかった。  これが、萌の見た浅野の最後の姿だった。  そして、黒の王もまたこの一部始終を見ていた。  今までと同じように、ずっと、彼らを監視し続けていた。
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