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【平坂 大】12:俺はここにいる。/完
「っん……ぅ……」
目を覚ますと見覚えのない場所。
周りには母さんも父さんも友達もいる。
のはいいんだけど妙に身体がだるい。
「だ、大ッ!? 大ッ!!! あんた目が覚めたの!?」
母さんと目が合うと駆け寄ってきて抱きしめられた。
「か、母さん……? ちょ、痛ッ、痛いってッ!」
痛い? だるい上に痛いって俺、どうしたんだろ。
どう見てもここは病院で、俺がそこにいるってことはどこか悪いのか?
と。ここで思い出した。
そういや俺、事故ったんだっけ。
「大! お前、二週間も意識不明だったんだぞ」
心配そうにってよりは茶化した感じで友達が言う。
さっき一瞬だけ見た表情がものすごく心配そうだったから安心してのことなんだろう。
へぇ、そうかぁ。
俺、二週間も意識不明だったのかぁ。
「あははは、マジかよ。俺、二週間も寝てたわけ?」
「おいおい、お前、笑いごとじゃないだろ?」
「お前、もう少しで危なかったんだぞ?」
そんな風に周りに心配されたり喜ばれたりでありがたいことだったんだけど、そんな中でどうしてかな。
"空"が気になったんだ。
だから窓から空を見てみた。
どうしてだろう。
懐かしいって思った。
でも、それだけじゃない。
心を締め付けられそうな。
そんな想いに駆られる。
「あ、空!」
女友達の一人。
璃子って子が叫んだ。
空?
見てみると入り口のところに女の子が一人いて俺をじっと見ていた。
「だ、大……? い、生きてる? 大、生きて、る……?」
「えっ、なんで、俺の……」
こと、と言いかけたところで璃子が言う。
「大、この子ね、私の友達で空っていうんだけど、知らない?」
「はい?」
――そ、ら……?
俺は考える人の像みたいになって考え込んだ。
人生でこんなに考え込んだのって初めてかもしれない。
そして窓の外に広がる空を見て思い出した。
――生きてるのも死んでるのも同じだって思ってた。
――でも、空に出会えて生まれて初めて"生きたい"って思った。
「そ、ら……!? あ、あぁッ!?」
「おいおい。でかい声出すと身体に悪いぞ」
「うわッ! 空だッ! 空、空空空ッ! 空ぁーッ!!」
そこで俺をじーっと見てるのは確かに空だ。
「……じゃ、あたしこれで帰る」
「ちょ、ま、待てよッ!」
「空、空ぁ! なに照れてるのー?」
「え? 空、照れてるの?」
父さんが空を見てニヤニヤしながら俺に言った。
「おい、大、この子もしかして、お前の彼女か?」
「ち、ちち違う! ち、ちがっ、違います!」
空が慌てて否定する。
確かに違うけどあれだけ慌てて否定されると期待してもいいんじゃないかって。
今、目の前にいる空は生きている。
そして、俺も生きている。生きてるんだ。
「なぁ、俺さ。空にずっと言いたかったことがあったんだ」
「え?」
「俺は、生きてるから。ここに、いるから。だから、ちゃんと言うよ」
「……大?」
友達が皆、俺と空に注目する。
璃子は笑顔で空のことを見ていた。
母さんもなんだか嬉しそうにリンゴの皮を剥いてた。
父さんは腕を組んで満足そうに何度も頷いてた。
「空、俺とコンビを組もう。漫才コンビ。そう、コンビ名は大空だ!」
「は?」
「いや、絶対上手くいくと思うんだよな。俺たちって息ぴったりじゃん?」
空は俺を見て拳を震わせながら言った。
「ばか、ばかばかばか、ばかばか、大のばかッ! ちょっとでも期待したあたしが、あたしが馬鹿みたいじゃないッ!」
「何を期待したんだよー?」
「そ、それはあんた、そ、それくらい察しなさいよッ!?」
「どーせ俺はバカですよー」
「それくらいとっくに分かってるわよ!」
空が俺に平手打ちを繰り出そうとした瞬間、俺は言った。
「空、好きだ」
空の動きが止まる。
俺はぺこっと頭を下げる。
「俺と付き合ってください」
拍手と口笛が病室に響き渡った。
「こ、この状況で断れるわけないじゃないッ! ば、バカ……」
「空、おめでとッ! ふふ、良かったじゃん」
璃子が空の頭を撫でながら笑っていた。
「なッ!? べ、別に嬉しくなんか……」
「空は素直じゃないよなぁ」
璃子もそれに賛同する。
「そうそう、素直じゃないよねぇ」
悔しそうに俺の友達の一人が呟いた。
「お前、いつこんな可愛い子と知り合ったんだよ?」
「教えられないなー。俺と空だけの秘密だもんな?」
「私は知ってるけどねぇ」
と璃子。確かに詳しく知ってそうだ。
その辺の話も聞きたいとこだな。
俺の知らない空のことも聞きたい。
――手を伸ばした。
俺はここにいる。
空もここにいる。
遠くなんてない。
今、目の前にあるんだから。
ずっと届かなかった空に、
今、手が届いた。
(完)
お読みいただいてありがとうございました。
続いて【遠野 空】編も更新していきますのでよろしくお願い致します。
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