そして、時夫の時が動き出す

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「時夫、ちょっと良い?」  僕が自分の部屋で寛いでいると、シロちゃんがやってきた。僕が「いいよ」と返事をすると、シロちゃんはゆっくりと入ってきたんだ。  僕は期待していた。シロちゃんが僕の部屋に来る時は、大抵冒険に出掛ける合図だったからだ。今度は満月の上にまで冒険に行きたいと願っていたのを覚えているよ。  でも、この時のシロちゃんはいつもと様子が違った。いつもなら勢いよくドアを開けて、僕のベッドにまで飛び込んでくるのだ。その時は、おずおずとドアを開けて入ってきて、ベッドの前に来た時も馬鹿にしおらしい態度だった。 「どうしたの、シロちゃん? 冒険の話をしに来たんじゃないの?」  シロちゃんは押し黙ったままだった。いつもは眉の上に切り揃えた前髪が、伸び上がって瞼を隠している。冒険の時には桃色に染まっている頬は、冷たい氷のように真っ白だった。  一瞬だけ見たら、それはもうシロちゃんだと気付かないくらいの別人だった。それでも、僕はシロちゃんだと信じるよ。  だって、僕はシロちゃんが外から開けてくれないと、部屋から出られないから。
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