そして、時夫の時が動き出す

9/15
前へ
/15ページ
次へ
 次にどんな言葉を掛ければいいんだろう? シロちゃんがまた元気な笑顔を見せてくれるような、魔法の言葉が浮かんでくれればいいのに。  すると、シロちゃんは鼻を啜って僕の腕から離れた。  僕の胸の中に隠れて見えなかったシロちゃんの顔は、びしょ濡れだった。両目が真っ赤で、頬には涙が滝のように流れた跡が見えた。鼻水も垂れている。おかげで僕の服の胸のあたりは、涙と鼻水で濡れていた。  決して綺麗な顔とは言えなかったんだけど、シロちゃんは次の涙が溢れないように懸命に唇を引き締めていたんだ。シロちゃんは気丈夫な子だ。僕はその時の彼女の顔が忘れられない。 「時夫」彼女は震える声で僕の名前を呼んだ。 「私、時夫に絶対に会いに行くよ。だから……」  そこまで言って、彼女は口を噤んでしまった。また両目から涙が溢れ出しそうだったからだ。  シロちゃんの言いたかったことは、わかってるよ。 「ずっと待ってるよ、シロちゃん。また会う日まで。今度また会えたら、今までよりもずっと楽しい冒険に出掛けよう」  シロちゃんは一瞬目を見開くと、すぐに顔をくしゃくしゃにした。  ああ、また泣かせてしまった。  僕はいつまでも泣き続ける彼女の頭を撫でながら、両目に溜まっていく涙が流れないように堪えた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加