ずっと、忘れない

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――ああ、もうこんな時間。 夜の闇もすっかり濃くなるころに、ようやく家に帰りついた梨江は大きく息を吐いた。 品のいい華奢なパンプスを無造作に脱ぎ捨て、シンプルだがそこそこ高価なバッグを小さなリビングのラグチェアに放り投げた。 煩わしい視線から解放されて、自分だけの場所に戻ると、やはりほっとする。 着替えもせずに狭いダイニングを横切って、洗面所の鏡の前に直行する。顔を近づけて覗き込むと、梨江は半ば無意識に自分の顔をするりと撫でた。 母親譲りの目はくっきりとした二重で、睫毛も指先でたどれるほどに長い。高くはないが筋の通った鼻は横顔のラインを際立たせ、赤みの強い唇が上品な紅をまとって艶やかに光る。 「あれが梨江!?」 「うそ、信じられない……!」 今夜散々耳にした、驚きとも妬みともつかない囁き声を思い出し、梨江は思わず苦笑いを浮かべた。 中学を卒業して以来、10年ぶりの同窓会だった。 地元を離れて東京の大学に進学し、そのまま就職した梨江にとって、同級生に会うのは卒業以来だ。いろいろあって、成人式にも出ていなかったことを今さらのように思い出す。
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