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久しぶりの唐揚げは
「お惣菜、久しぶり~!」
亜月は六畳間の畳に置いた唐揚げを前に、テンションを上げて言った。
「本当にいつからかなあ、覚えてないくらいだな。
……嘘。覚えてるよ。実菜の誕生日だよね。学生でお金ないから、学食の唐揚げ弁当買ってさ。ハッピーバースデー歌って、ワイングラスの代わりに唐揚げ合わせて。……私は楽しかった。実菜は? あ! そうだ!」
亜月は訊いておきながら返事を待たずに立ち上がった。棚から一冊のアルバムを取って戻った。
「卒業後ね、私、実家に帰ったでしょ? でもすぐにまた出て、専門学校に行ったんだ。海外の国立公園のレンジャーになる夢、結局諦められなくて。
残念ながらレンジャーにはなれなかったけど、好きな勉強ができて、すごく楽しかった。」
言いながらめくるアルバムには、笑顔だけではなく、真剣な顔で実習をしている姿もあった。
「で、なんか、ようやく諦めがついたんだ。やるだけやったからかなあ。
……あの頃付き合ってた彼氏と結婚するよ。
新しい人生の始まりってやつ。」
喜ばしい報告だ。
だが、亜月は途中で泣き崩れた。
「スピーチ頼むなら、実菜って決めてたのに。
なんで?」
号泣する亜月の前方、唐揚げの向かい側には、写真立てがひとつあった。実菜の家族の厚意でもらった実菜の笑顔の写真が飾られている。
亜月はひとしきり泣くと、涙を拭いて身を起こした。
次に会うときには、お互いにサプライズをーー卒業式の日に、そう言って別れた。連絡も取らなかった。
約束は守られた。
亜月は婚約の報告、実菜はーー植物状態だった。
「レンジャーってね、医学もやるのよ。
でも、実菜の状態はジャンルが違うから……
……勉強する。私がこの世に戻してあげる。」
亜月は断言して、唐揚げにつまようじを刺して頬ばった。
「うん、元気出る。やっぱ唐揚げだよね。
ババくさく青汁も飲みますけど。」
写真の笑顔が、本当に笑って見えた。
亜月は思わず微笑んだ。
いつか、必ず、「久しぶり!」を言い合うんだ。
そう心に誓った。
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