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戦隊をやりませんか?
「戦隊をやりませんか?」
粉雪舞う十二月。灯里さんとの三度目のデートの終わりにデニムに身を包んで太い眉がいかにも熱血漢という男に声をかけられた。
灯里さんは早々に僕の背中に隠れる。
「僕ら、そういうの間に合ってますので」
穏便に済まそうと宗教の勧誘とかに発する常套句を口にする。
「いや。そういうのではないのだ。是非君らと一緒に正義の味方をしたいのだよ! 大体おかしくないか!? テレビではあんなに戦隊が持て囃されるのに現実では戦隊なぞ存在しない! 存在意義はあるはずだ! それも一人のヒーローではなく戦隊であることが肝なのだよ! これを見てくれ!」
男がそう言って取り出したのは赤青ピンクのマスク。
「君らの立ち居振る舞いを少し鑑賞させて頂いたが君らは武術の心得があるのだろう? 私の目は誤魔化せない!」
どうやらこの人は話を聞いてくれない。武術の心得はあるが、空手を習っていたのは学生時代の話だ。現在、習っていたとしてもわざわざ他人に暴力を振るう気にはならない。
「申し訳ありませんが……」
「きゃあ!!」
突如に灯里さんの叫び声がして僕は振り返る。暴漢に手を掴まれていた。
「あんな弱そうな奴より俺がいいって。ほら見ろよ。縮こまっている。なぁ陽介?」
その暴漢を僕は知っている。中学生のときに僕をいじめ抜いて僕が空手を始めるきっかけになった男。
「ほらほらぁ。立ち向かって来ないと拐っちゃうぞぉ」
暴漢は灯里さんの手首を握り持ち上げる。灯里さんの身体が浮いた。
「どうすれば……」
悩む僕の肩に男が手を置いた。
「萎縮するならば化ければいい。マスクとはそういう効果もあるものだ」
男は僕にマスクを被せてくる。視界が変わる訳ではないが、何故かしら安心感がある。
僕は一歩踏み出す。
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