137人が本棚に入れています
本棚に追加
「消防士さんだっけ? ミヤちゃんの好きな人」
風香は、上履きのつま先をトントンしながら、相変わらずのニヤニヤ顔を都古へと向けた。
「まだよ。今は訓練生だから、寮に入って消防学校に通ってるって言ってた」
会えない寂しさを誤魔化すように、都古はツンとそっぽを向くようにして進む方向を真っ直ぐに見る。
その凛とした中にも物憂げな雰囲気の漂う美しい横顔に、風香は溜息を漏らしつつ、
「全寮制だっけ? それって、訓練生の間は会えないってこと?」
風香も都古の隣に並んで歩き、自分の教室を目指す。
「この間、休みの日がうちのお兄ちゃんの帰省する日と被ったとかで、うちに遊びに来てたわよ」
――そう。
都古の好きな人とは、都古の兄の友人のことで、
「俊さん、って人だっけ? 脳筋バカの」
「バカは余計よ。空手がすっごく強くて、すっごくカッコイイんだから」
名前は、相原 俊という。
兄が高校生の頃からの親友で、元々は兄の婚約者の美紅に対し、ずっと横恋慕していた。
その美紅が兄と付き合うことになった時も、婚約が決まった時も、俊は涙を流しながら失恋を悲しんだものの、それでも彼は二人の幸せをずっと願ってくれていて。
そんな切なくも温かい背中をずっと見てきていた都古は、そんな彼に対していつしか恋心を抱くように。
自分の気持ちに素直な都古は、すぐに彼に気持ちを打ち明けたのだが……
最初のコメントを投稿しよう!