私の好きな人

6/14
前へ
/343ページ
次へ
「消防士さんだっけ? ミヤちゃんの好きな人」 風香は、上履きのつま先をトントンしながら、相変わらずのニヤニヤ顔を都古へと向けた。 「まだよ。今は訓練生だから、寮に入って消防学校に通ってるって言ってた」 会えない寂しさを誤魔化すように、都古はツンとそっぽを向くようにして進む方向を真っ直ぐに見る。 その凛とした中にも物憂げな雰囲気の漂う美しい横顔に、風香は溜息を漏らしつつ、 「全寮制だっけ? それって、訓練生の間は会えないってこと?」 風香も都古の隣に並んで歩き、自分の教室を目指す。 「この間、休みの日がうちのお兄ちゃんの帰省する日と被ったとかで、うちに遊びに来てたわよ」 ――そう。 都古の好きな人とは、都古の兄の友人のことで、 「(しゅん)さん、って人だっけ? 脳筋バカの」 「バカは余計よ。空手がすっごく強くて、すっごくカッコイイんだから」 名前は、相原(あいはら) 俊という。 兄が高校生の頃からの親友で、元々は兄の婚約者の美紅(みく)に対し、ずっと横恋慕していた。 その美紅が兄と付き合うことになった時も、婚約が決まった時も、俊は涙を流しながら失恋を悲しんだものの、それでも彼は二人の幸せをずっと願ってくれていて。 そんな切なくも温かい背中をずっと見てきていた都古は、そんな彼に対していつしか恋心を抱くように。 自分の気持ちに素直な都古は、すぐに彼に気持ちを打ち明けたのだが……
/343ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加