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私は物心ついた時から戦場にいたと思う。少なくとも1番古い記憶は血で錆びたナイフで自分の数倍はあろう大男を刺し殺したという何とも嬉しくないものだ。
親なんて物はいないし、自分の年齢も名前も何も分からなかった。
でも名前だけは私が自分で決めた。
月が明るくて湿った風が吹く日で理由なんて覚えてないけど若い女と小さな赤ん坊をこの手で握り殺した時に、若い女が持っていた本を読んで決めた。
本の内容はなんてことは無い夢物語で、この世界のどこかに争いの起きない平和な桜の咲く街があった。
そんなことだけ覚えてる。だから私は私自身を桜都と名付けた。
そうすれば血の降る世界に自ら飛び込まなくても済むかもしれない。なんて夢物語を抱いていたのだろう。
後ろ盾のない幼子が殺し合いの世界で生きていくのは難しい。けど、幸いなのか私には屈折と延長を操る能力が備わっていた。
それがいつからあるのか、生まれた時からあるのか。そんなことはもう覚えていないけど私はその能力を使って仄暗い世界を生き抜いてきた。
幼子の両眼を抉り出し、小さな頭を蹴飛ばした。
老人の皮膚を剥ぎ取り、その内臓を貪り尽くした。
屈強な男の四肢を捥ぎとり、野犬の蔓延る路地裏へ放置した。
痩せた女を拘束して、己の皮膚が破けるまで殴り続けた。
そうして
殺して
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して
気づいた時には私を知る人はいなくなっていた。
悲しいわけじゃない。涙なんてものを流したこともない。
ただどうして生きているのかが分からなかった。
私を待つ人はいない。
私の死を惜しむ人もいない。
私がいなくなっても気づく者はいない。
なら、どうして私は生きてきた?
生きる理由もないのに命を啜り、浅ましくも生きている。
罪すらない者たちの屍の上にどんな大義があって立っている?
聞こえるはずのない怨嗟の声が聞こえる。
なんで、私は人を殺すことをやめられないの?
いつからだろう。
人を殺した時の記憶がなくなっていたのは
いつからだろう。
目を覚ませば血に塗れた己の両手と苦痛に顔を歪めた亡骸が転がっている情景が両眼に映るようになっていたのは
いつからだろう。
人を殺すことに罪悪感が湧くようになったのは
いつか、こんな私を受け入れてくれる世界に行けれたのなら
いつか、私を愛してくれる人がいたなら
どうしようもない私はまた殺すのでしょう
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