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*side楓
――……
「楓、おはよう
そろそろ出るね」
まだ薄暗い時間に肩を揺すられる。
『…ぅ、え…分かった、』
「風邪ひかないようにね」
にっこり笑って部屋を出ていく。
数秒後に鍵がかかる音が聞こえた。
『…別に、何も言わずに帰ればいいのに』
見送らないのは私のせめてもの意地だ。
何も言わずに突然やって来るくせに、
いなくなる時はこうやって声をかける。
鍵を持ったまま。
どこまでも勝手な人。
それでも拒めない。
捨てられない。
私からは離れていけない。
もう二度と来ないでと思うのに、
いつも角を曲がって、見える自分の部屋の電気がついていたら心の底から嬉しくなる。
あの日が最後じゃなかった、そう安心する。
もうこれ以上は眠れないと分かりいつもより早くにベッドから起き上がる。
季節は夏に近付いているのに、むき出しだった肩がひどく冷たく感じた。
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