Ω

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α至上主義から、世界はだいぶ変わったとβの親は言ってたけど・・・。 今もまだ、自分達の住むβ地区はαやΩに対しての偏見や差別が根強かった。 大体、6歳〜12歳の頃にバース検査を行い、ここで基本バースが決まると言われるが、成長ホルモンの影響で変わる事も為、13歳〜16歳にもう一度検査を行う。 その頃には、早いオメガだと初潮ともに発情期が来る。そして、18歳頃には初ヒートが起こる様になる為、高校に入る頃にはバースで全てが分けられる様になっていた。 αのみのエリート校、α、βの普通校、β、Ωの専門校。Ωの性質から、発情、ヒートを迎えた時から、Ωは国のお見合い対象になる。だから、自分の周りにいるΩは番がいる存在だった。 オレの通っていた学校は、βが通う普通校。それでも、少数のαがいた。 そこでも、αは特別な存在だった。 学年に、一人、二人位のα。そのαに媚を売るものが派閥を作り、βなのにΩの様に振る舞う生徒。男も女もαの前ではβなんてΩよりも価値の無い存在だった。 その事から、大抵のβは目を逸らしΩを卑下する様になった。 「マジ、オメガって楽してαに養って貰えるとか良いよな〜。」 「だよな。セックスして子供でも作れりゃ国からも金貰えるしな!」 「けど、男同士とかマジキモくね?」 「言えてる!! まぁ、オメガの男も女も淫乱らしいから、病みつきになるんじゃね?」 「αのアレもやばいらしいぜ!!」 「あー!!それ、オレも聞いた! なんか、コブみたいなのあるんだろ? マジやばくね?」 「しかも、10分は射精すんだろ?! 動物かよ!しかも何度もやるんだって」 「やっば、絶倫か! マジ 動物!!」 クラスメイトの下世話な話題はいつも同じ。 そんな話題に、オレはウンザリしていた。  「あれ、今日は君の当番じゃないよね?」 この会話も、何度目だろう・・・? 彼は、図書委員会の委員長で、「メガネの優等生」って影で呼ばれてるのを聞いた事があるほど、優秀な先輩だけど・・・毎回話し掛けてこなくてもいいんだけどなぁ・・・。 それでも、先輩に対しての礼儀として・・・ 「・・・ここに来ると静かなんで・・・。」 そう言って、図書委員の先輩に挨拶していつもの場所で本を読む。 この図書室から、グランドが見える、窓側の席。 グランド側からは、この窓は見えても窓の下側は死角になっている。そこで昼寝をしてる生徒を確認し、自分の指定席に座る。 彼はこの学年2人だけのα。 東堂高雅(とうどう こうが)一目でαだとわかるその外見は長いて足に整った顔。自分とは違い、キリリと男らしい目元に、スッと通った鼻。生まれながらの支配者であるかの様なオーラを纏っていた。けど、彼は隣のクラスのα様と違って、取り巻きも作らず、いつも一人でいた・・・。 あの日、図書室で本を読んでいると窓の外から海の音が聴こえてきた。 気になって、微かな音を頼りに窓に近づくと…。 日の陰で涼しいのか、うたた寝をしていた彼を見つけた。彼のイヤホンから、海の音がしていた。αのイメージと違って、その時は驚いたが・・・、彼はその波音の様にただ静かにそこで寝ていた。きっと、学校の誰もこんな彼を知らない。その事に、少し優越感感を覚えた。 それ以来、窓の外を気にする様になった。彼は、中に入って来る事なくその場所で、本を読んでいたり、昼寝をしていたり・・・。壁を挟んで、彼と過ごす穏やかな時間は、卒業まで続いた。  多分、オレは高雅が好きだったんだと思う。 一度、グラウンド側から高雅の見ている景色が気になって見に行ったことがあった。 彼がどんな世界を見ているのか・・・。後にも先にも・・・あの時だけ。 彼に近づきたいと思ったのは。 自分はβ。αにとったら、Ω以下の人間。それも、男同士。 それならまだ、Ωだったら……。 ・・・うわっ!! なんか、懐かしい夢見た。 高校の時の夢・・・? 余りの鮮明さに、びっくりしてベットから飛び起きてしまう。 後にも先にも、自分から関わった唯一のα そんな彼を今頃、思い出すとか・・・ はぁ・・・。きっと、こんなの届いたからだな・・・。 机の上に置かれた手紙を横目に、支度を初めた。 『 第30X回 αマッチングシステム調査票 』 適齢期を迎えたΩのあなたへ。 番のいない、オメガの皆様は 政府主催のマッチング会への参加が義務となっております。 こちらの調査表を記載の上、添付のテスターに精液(分泌液)を塗布して返送ください。 ・・・精液・・・。 相性の良い、Ωとαはフェロモンの匂いが好ましく感じ、運命の番は相手の匂いで発情する。 だから、これが冗談では無い事はわかってるんだけど・・・。 つい最近まで、βとして生きていたオレには受け入れ難い・・・。 はぁ・・・。これ、出さないと強制採取されるんだよな。 「Ωが保護されてるとか・・・言い様だよなぁ・・・。」 思わず、独り言が漏れ出てしまった。 あの日、高校の卒業記念にバイト代で両親と温泉旅行に行った帰り・・・。 18年間、βとして生きてきたオレの人生は、180度変わってしまった。 オレたちの乗っていたバスに、トラックが突っ込んできた。 それが、最後の記憶。 次、目が覚めた時にはオレの両親はすでに亡くなって、火葬まで済んでいた。 火葬を行ったのは、父の幼なじみで親友の火野公平おじさん・・・。この旅行の為に、バイトをさせてもらったカフェバーのオーナー。 「・・・え・・・? 公平おじさん、今なんって・・・。」 「ミヤ君・・・、君のお父さんとお母さんはもう亡くなってるんだよ・・・。」 「う、嘘だ! だって、さっきまで一緒にバスに・・・ッツ!!」 「み、ミヤ君、動いちゃダメだよ!!! 君も1週間も意識が無かったんだよ!」 「え・・・そ、そんな・・・」 「・・・み、ミヤくん?!」 「う、うわあぁぁぁぁ・・・・!!!!! あ・・・ああぁ・・・」  ビービー 「す、すいません!!! 急に、か、彼が発情し始めて・・・!!」 激しく鳴らされる、ナースコールの音に自分の鼓動が早く、身体が熱を持ち抑えきれなくなってそのまま、意識を失った。 次、目が覚めた時 オレの世界は変わっていた。 「・・・え? 先生、今・・・なんて・・・。」 「信じられないかもしれませんが、あなたはΩ型の男性になります。 今後、月に一度の定期検診とこちらのネックガードが義務となり、政府主催のブリーディングを受けてもらいます。」 「そ、そんな・・・。オレ、今までの検査でβって・・。両親だって、βだったのに・・・。」 「君の様な子は、すごく稀な事だけど・・・。全くいない訳じゃないから安心して欲しい。 あと今後、検診で子宮の触診もあるけど、男性か女性の医師を選べるから不安を感じる様なら女性医師で予約を入れておくけど・・・。」 「え? 子宮・・・お、オレ、男ですよ?」 「ああ、オメガ性の男性も、女性同様に子宮と卵巣があって妊娠出産が可能なんだけど・・・・、学校で習わなかったかな?」 「・・・え・・・あ、オレ今までβのカリキュラムだったから・・・その・・・。」 「そっか。そしたら、これ。 今の君は、オメガになりたての体だから、今すぐにヒートが来るとは思えないけど・・・、抑制剤と発情期、ヒートについて簡単に書いてあるから読んでおいて。」 「は・・・はい・・・」 「あ、君。彼女とかいた? 彼氏でもいいけど。見舞いに来てた彼は?・・・違うの?まぁ、 もしいるなら内診はパートナーにやってもらう事になるから、月一の検査の時は一緒にくる様にしてください。」 「・・・・は、はい・・・・。」 それから二年・・・ オレは、父の親友・・・公平おじさんの住んでいるΩ地区で暮らしている。 高校時代にアルバイトをさせて貰っていたカフェバーでそのまま働かせて貰っている。 前は、ホールにも出ることがあったが・・・、今はキッチン担当となりオメガナイトの夜のみバーカウンターに立つ様になった。 「ミヤ君、おはよ〜。 体調はどう? 今夜出れそう?」 「大丈夫だよ。これから検診にも行ってくるし・・・。」 「そっか。そしたら、今夜お願いするね。けど、今日はαも来るからくれぐれも気をつけてね。」 「大丈夫だって! それにオレ、最初の発情期以外まだ発情した事ないし!βと変わらないから、大丈夫だって!!」 「・・・ミヤ君。 いい!? 何かあったら、すぐキッチンに入る事! あぁ、僕がぎっくり腰なんてやってしまったばっかりに・・・。」 「わかってるって! 公平おじさんはゆっくり休んでよ。」 「・・・ありがとうぅぅ。ほんと、ミヤ君は良い子だねぇ・・・。けど、もし良い人がいたらその時は、僕の事は気にしなくて良いからね。」 「・・・・う、うん。」 病院で、オメガだとわかった瞬間・・・ 両親の親戚達は、音信不通となった。 入院費用などは、両親の残した保険と、オメガと判定された事で、国が全額負担してくれた。 国の施設に入るには、年齢が過ぎていた為、一人で暮らしていくつもりで退院をしたその日 病院の入り口で公平おじさんは待っていてくれた。 「ミヤ君、良かったらうちに来ないか? ご両親の位牌もちゃんと一緒に・・・。」 「・・・おじさん。けど、オレ・・・」 「君がβだろうが、Ωだろうが・・・僕には大切な親友の子だよ」 おじさんが優しく抱きしめてくれた。 その時、両親が死んで初めてオレは涙を流した。 公平おじさんは父と同じβなのに、オメガ地区でカフェバーを経営していた。 なんで、オメガ地区で暮らしてるのか、幼い頃に一度父に聞いた事があったけど、その時は父の言ってた事はわからなかった・・・ けど、一緒に暮らす様になってわかった。 公平おじさんの恋人は、オメガだった。 けれど、運命の番と出会ってしまった。どんなに愛し合っていても、オメガのヒートをβが満たす事は出来ず・・・。そのオメガの恋人は一度おじさんの元を去った。 けれど、相手のαが亡くなった。 番となった相手が死んでしまったオメガは、新しく番を作る事は出来るが、おじさんの恋人は残りの人生を公平おじさんと暮らす事を選んだ。 その人と一緒にいる為に、おじさんはここを作った。 おじさんのカフェバーは昼は、βの女の子のバイトが二人ホール。キッチンにΩの女の子と公平おじさん。夜は、βの男の子が二人。キッチンにオレと、もう一人Ωの男。 けど、オメガナイトの日は、キッチンとホールが逆転し客層も変わる。 それは、一夜限りの相手を探す意味もあった。
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