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東堂の仕事とは・・・
はぁ・・・・
何度目かのため息なのか自分でも分からなくなってきた頃、コーヒーが差し出される。
「社長、朝早くにすいません。コーヒーどうぞ。」
「あぁ・・・。悪いな・・・。」
出されたコーヒーの香りに、苛立っていた気持ちが少し収まる。
「何か、ご予定でも有ったんですか?」
「あ? まぁ・・・、病院に付き添うつもりだったんだけどな・・・。」
「「「エ!!」」」
それまで、静かに仕事をしていたスタッフが一斉に高雅の方を見て、好き勝手に言い話し出す。
東堂は大学時代の仲間とゲーム会社を立ち上げ、今では政府機関のアプリ開発にも関わる様にまで会社は成長し、東堂自体が現場で作業する事は滅多になくなった。
それが、今回は新しいアプリゲームのシナリオリリース直前にバグを発見した初期スタッフから急に呼び出されたのだった。
大学時代からの付き合いもあるせいか、初期スタッフ達は高雅を「社長」と呼びつつも、その距離は近かった。
「ちょっと〜、社長〜。スキャンダルは勘弁っすよ〜?」
見た目はチャラいのに、キーボードを打つ速度は音速。音速の貴公子と名乗っちゃう残念イケメン。
「付き添うって、そんな相手いつ?!!」
外見メガネロリ巨乳の老け専残念鬼畜ドM女子。
「もしかして、マッチングしたとか?」
初期スタッフで一番の常識人。みんなの良心と言われつつ、実は真っ黒腹黒ドS。
そんな、一癖も二癖もありそうなスタッフ達に怯む事無く高雅は自身のキーボードを打ち続ける。
「・・・オイ。手は動かせ! てか!! お前も、こいつらにコーヒー出すくらいなら続きやれ。」
「えー、僕の息抜きだったのになぁ・・・。で? マッチングしたのか?」
自席に戻った、彼もまた初期スタッフの一人。 高雅との付き合いも一番長く、今は秘書の様なポジションにいるが立ち上げ時が彼が技術面では中心となってやっていた。
そもそも、会社を立ち上げるきっかけもこの男が居たからだった。
そんなメンバーとの作業は、思わず東堂の口も軽くしてしまう。
普段、事務所にいる東堂に声をかける様なスタッフは居なく、この初期スタッフでさえ他のスタッフからしたら、軽々しく声をかけれる存在では無かったが、このメンバーで集まってしまうと、一気に学生時代へ戻った感覚になってしまうのだった。
「・・・まだ、マッチングはしてない。」
「「「「まだ!!」」」
ジロリと高雅に睨まれて、3人はPC画面に顔を固定しつつ、耳は高雅に集中していた。
もろん、キーボードを打つ手は止まらず・・・。
「へー、じゃあ、その子はこないだのオメガナイトででも知り合ったの?」
「・・・・・。」
「「「「!!!!!」」」」
東堂が、黙ってしまった事を肯定と受け取った4人は一斉に、チャットで話始めた。
貴公子『ちょ・・・!! 社長!何があった?!』
ロリスト『こないだ、雅っちが誘ってた日じゃない?!』
黒豆『ま? 』
バリスタ『僕、高雅がリスト見てるの見かけたんだけど・・・。あれは、どうするのかな? 』
貴公子『社長αっすもんね!!』
ロリスト『えー! 複数飼いは、解釈違いだわぁ〜。』
黒豆『あ? お前が言うな。』
ロリスト『はぁ?? そのまま、熨斗つけて返すわ!』
バリスタ『高雅に限ってそれは無いよ。 ってか・・・高雅って・・・』
一斉に、4人の視線が壁に貼られたポスターへと注がれた。
今回、リリースするアプリゲームのキャラクターが描かれたポスター。
恋愛シミュレーションゲームのヒロイン的なキャラクター。
このゲームは、東堂が会社を立ち上げた時の最初の作品。それのリバイバル化と言うことで、前回無かったエンディングを追加することになったのだが、リリース直前にバグを見つけてしまい、急遽社長である東堂、初期スタッフが駆り出されたのだった。
それに、東堂はこの作品だけはスタッフが増えた今でも丸投げする事は無かった。
それ程までに、このキャラクターに思い入れがあった。
大学時代の東堂の女性遍歴も知っているが、会社を立ち上げた後はこのゲームに会社にほぼ時間を費やしていた。
そんな東堂が・・・?
4人の手が一瞬止まる。
その瞬間、東堂が吠える。
「オイ! お前ら、さっさとやれ!!リリースに間に合わねぇだろ!!」
「「「「はい!!!!!」」」」
ふぅ・・・。
壁の時計を見ると、リリースの1時間前だった。
「お疲れ様。 何とか間に合ったね。」
「ああ、リリース後の微調整とかは頼んだ。」
「もちろん。 所で、その子は可愛いの?」
「あ?」
東堂は受け取ったコーヒーを思わず、吹き出しそうになる。
「それ、オレも聞きたい〜!」
「勿論、もうガッブっといった?」
「オイ、慎みをもてよ。」
「で、どうなの?」
ニヤニヤした顔の4人が、東堂を取り囲む。
付き合いが長い分、普段は他人に興味のない奴らなのに、こういう時は捕まると長いのを東堂は知っている。
だから、変に隠すより正直に言った方がいい。
その方が、早く尊の側に戻れる。
それなら、別にこいつらに何を思われようが関係ない。
「はぁ・・・。今度、お前らにも紹介はするから、今はそっとして置いてくれ。」
身支度をさっさと整えながら、そう告げると4人は唖然とした顔で一瞬固まっていた。
「「「「!!!!」」」」
「俺は、今日はもう帰るから、お前ら後頼んだからな。」
「え・・・あ、うん。 お疲れ様。」
東堂が部屋を出ると、一気に騒がしくなったのが背中越しに聞こえたが、振り返る事なく先を急いだ。携帯を取り出し、届いていたメッセージを確認する。
一つは、家政婦の市原からの報告だった。
「ああ、ちゃんと起きれたのか。」
思わず口元が綻んでしまう。
あのまま、自分が帰るまでベットで寝ていてくれても良かったのに。
もう一通のメッセージを確認すると、そのままいつものカフェへ車を走らせていた。
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