可愛い可愛い星人

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 可愛い可愛い星人

病院の駐車場に止めると、少しすると尊が駆けてくるのが見えた。 その姿に、顔が緩んでしまうが、今日の血液検査であの医師ににはあの事がバレるだろう。そう思うと、緩んだ顔がすぐに戻ってしまう。 コンコン 遠慮がちにノックをされる。 ああ、可愛いな。 「おかえり。」 「え・・た、ただいま?」 「今日、一緒に行けなくて悪かったな・・・。」 「ううん。採血だけだったし・・・」 そう言って、助手席に乗り込んできた尊の手にコーヒーが握られているのを見る。 まだ、暖かそうなそれに思わず、恨めしそうな声で言ってしまう自分が嫌になる。 「・・・まだそれ、暖かそうだな。」 「え? あ、これ? さっき、先輩に貰って・・・」 「先輩・・・?」 そのワードに、思わず視線が尊が走ってきた方へと向く。 ・・・誰かこっちを見ている?  まさか?  そう思った時には、尊からコーヒーを取り上げていた。 まだ暖かいコーヒーの香りに混じって、何か違和感を感じる。 そのまま、見えているかはわからないが、運転席から見せつけるように流した。 「ちょ、東堂! そんなところに捨てるなよ・・・」 「・・・ごめん。けど、妬いた・・・。」 そう、これは醜い嫉妬。 けれど、そんな醜い感情ですら、尊には知ってもらいたい。 「何それ・・・。」 ちょっとびっくりした様子の尊が、わざと拗ねた感じで言ってくる。 それすら、可愛い・・・。 「まだ、先輩に貰ったやつ口つけてなかったんだけど?」 「・・・本当に?」 思わず、キスをしていた。 こんな所でとは思ったけど、耳まで赤くしている姿を見たら止められなかった。 何度か触れるだけのキスをすると、尊が消え入りそうな声で聞いてくるから、つい調子にのってしまった。 結局、病院の駐車場を出る頃には、自分の買ってきたコーヒーも冷え切っていた。 けれど、耳まで赤くなっていた尊は冷えたコーヒーを嬉しそうに助手席で飲んでいた。 ・・・可愛い。 昨日も思ったが、どうやら尊はアルコールに強くは無いが、酒を飲む事自体は嫌いじゃない様で、勧めれば飲むし気がつくと許容量以上に飲んでしまうらしい・・・。 それでも、そんな尊が可愛いからつい飲ませたくなってしまうのだから、尊には申し訳なく思うがそこは諦めてもらおう。 なんて思いながら、助手席で眠る尊の唇を指で拭う。 アルコールで上気した肌は、ピンク色に色付き首元のネックガードさえ淫美に見えてしまう。 尊に飲ませるだけで、自分は一切アルコールを口にしていなかったが、尊のその姿に喉が渇く感じがし、手にしていたミネラルウォーターを飲む。 「・・・尊、水飲めるか?」 ボトルを頬に当てると、尊がうーんうーん、唸りながら受け取った。 「うー、飲み過ぎたぁ・・・。」 「ほら、水飲めるか?」 「・・・んっく・・・ぅ・・」 飲みきれないで、唇から溢れた水が顎をつたって喉元へ流れていく。 街頭の光に照らされ、上下する喉元へにキラキラと道筋が出来、思わず東堂の視線が固まる。 ああ、噛みたい・・・。 手の甲で、濡れた口元を拭ながら見上げる尊の唇を、東堂は我慢できずに貪ってしまう。 「ちょ・・・ンんn・・・東堂。ここ、どこ?」 「・・・」 「と、東堂・・・。」 「・・・・レストランの駐車場。」 「!! ちょ!! は、恥ずかしいから!!!!!!!! うちに帰りたい・・・です。」 さっきまでアルコールで赤かった尊が、今は自分とキスをしていたのが外(レストランの駐車場)と知って恥ずかしさで赤くなってる。 ・・・可愛い。 しかも、まだ酔いの残る喋りが舌足らずで・・・可愛い。 可愛いに殺されそうだ。 そんな可愛い尊が、言った「うちに帰りたい」はどうやら自分の部屋の事だったらしく、東堂のマンションへ向かおうとした時に涙目で尊に「ちがぅ・・・」って言われた時は、軽くショックを受けてしまった。 東堂としては、あんな事があったマンションに尊を帰したくは無かったが、尊に泣かれたくは無かった。マンション前に車を止め、尊の鞄から鍵を探す。 何かがおかしい。 エントランスから、尊の部屋の方を見上げてみると黒い人影が動いた気がする。 「・・・尊、ちょっと車の中で待ってて。俺が戻るまで、絶対降りるなよ・・・」 「ん? ・・・うん。」 額にキスされ、東堂に言われるまま素直に、尊は車の助手席に戻る。 車に戻ったのを見届けてから、キーロックをかけるとそのまま、尊の部屋まで東堂は掛けて行った。部屋のドアノブに手をかけたのと同時に中から何者かが飛び出していった。 焦って後を追うと、そのままマンション裏に止めてあったバイクで逃げられてしまう。 ・・・チッ。 逃げられたか・・・。 すぐに、携帯で連絡をしながら、急いで尊の所へ戻ると、ぐっすりと眠る尊の姿に安心した。 それから数分で、警察がマンションに到着した。 「・・・早かったな。」 「ふん! あのお方に頼まれたからな!!!」 あの時の刑事が、嫌そうな顔で東堂に言いつつも、現場に的確に指示を出していたのを見届けてから、東堂は目的の場所へと向かった。   携帯で、連絡を入れると呑気な声で対応され、電話越しにスタッフが出勤してきた声が聞こえてきた。 『あ、おはよ。 ごめんね、今電話きてて・・・』 『いえ・・・着替えてきます』 「もしもし?」 「・・・そのまま、話を続けてもらえますか?」 「ああ、それで・・・。尊は大丈夫・・・」 ガチャ 「!!! しまった!」 アクセルを踏む足に力が入る。 助手席の尊は、ぐっすりと眠っている。 あの報告書にあったΩは、尊と一緒に働いていたΩだった。 あの刑事の言った様に、Ωが起こしたくだらない嫉妬。 それが原因だった。 けれどそんな事で、公平が傷つけば尊も傷つく。 そんな事は、許せなかった。 店に着くと、カフェバーオーナーの公平が運び出されるところだった。 尊を起こして、救急隊の方へかけていく。 まだ、頭が覚醒しきれてない尊でも、担架で運び出されてきた、公平おじさんの姿を見てこの事態が異常な事に気がついた。 「お、おじさん!!!」 「尊、揺すらない方がいいから・・・」 「と、東堂・・・けど・・・。おじさんが・・・え・・なんで・・??」 「うん、うん。 大丈夫だから・・・。 ほら、尊、一緒に病院に行っておいで。」 「!!! と、東堂!?」 救急車に乗った尊を見送り、カフェの中に入っていく。 警察に一旦、静止されたが関係ない。 中で、拘束されたΩが睨みながら東堂に吐き捨てる。 ああ、こんなのも確かに、あの日居たな・・・。 「そんなに、出来損ないΩがいいのかよ!!!!!!」 出来損ない? 尊の事か? 「けど、所詮はα、フェロモンには勝てないだろ!!」 ああ、こいつの笑い顔は勘に触るな・・・。 取り押さえられたΩが不敵に笑ったのと同時に、取り押さえていた男達に焦りが出る。 「あ、おい!!!!! 誘発剤だ!!!!!!!!」 一人の男がそう叫ぶのが早いか、そのΩの行動が早かったのか・・・ 店内に一気に、そのΩのフェロモンが広がった。 Ω地区に配属される警官は基本βとΩが多いが、αも配属されている。 また、人質をとるような凶悪事件になればαが多く動員されるのは仕方ないのだが・・・、このΩはそこを狙い、こうなる事がわかった上で抑制剤を隠し持っていたのだ。 それも、通常よりも濃い量のフェロモンが出るものを。 自分の目的の為に、誘発剤を使うなんて・・・ あの女と同じ行為に反吐が出そうになる。 「ああ、臭い。」 「な・・・おま・・・」 騒然とする現場で、男たちがフェロモンに倒れていく。 その中を平然と、歩き近づいていく。 「な・・・何で・・・」 「そんな事、お前が知る必要はない。」 ガッツ このΩ自慢の顔を殴るとそのΩは気を失った。 「おいおい・・・、今からそれ署につれていくんだからさ、見える所に怪我作るなよ。」 「ああ、つい・・・。」 「ついって・・・・はぁ・・。 はいはい・・・そういうことにしておくよ。」 興味なさそうに、手についた血を拭う東堂に、仕方なさそうに言えば東堂は血を拭った紙ナプキンを男のポケットにねじ込んだ。 「それは、どうも。 感謝してるよ。マルさん」 「ったく! そう思うなら、さっきの子と今度会わせろよ! でなきゃ、これも借りにつけとくからな!!!」 はいはい。と、手を振ってそのままカフェを出て行った。 会わせれば、借りじゃないのか? 全く、あの人も俺に甘いよなぁ・・・。
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