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通称マルさん (水谷 零 視点)
東堂がマルと呼んだ刑事 水谷 零(みずたに れい) は、昔東堂を地獄から救い出した警官だった。進級と同時に不登校となり、進学のための進路相談をする為家庭訪問にきた顔も知らない担任を母が追い返してから、十日・・・
あの地獄から、救い出された。
その現場にいたのが、当時、新人警官だったマルだったのだ。奇しくもマルの最初の事件は、東堂の身柄保護だった。マルの弟達と同じ年頃の東堂が実の親に性的虐待を受け、心身共に衰弱していた様子を忘れる事が出来なかった。 その所為か、つい東堂には甘くなってしまう。
大人しく高校に通っていたかと思えば、毎晩の様に出歩いて補導されるていた。その彼の持ち物に、決まって入っていたのが「抑制剤」だった。
その日も、夜中に繁華街を彷徨いていた、東堂を補導という名目で保護しマルは家に送ってた。
「・・・高雅、お前こんなもの常用してたら体に毒だぞ?」
「マルさんだって、支給されてる抑制剤飲んでんだろ? 」
「オレは良いの!刑事だから。お前は、まだ子供だろ!」
「子供ねぇ・・・。少なくともマルさんよりは、大人ですけど?」
「なっ! そういうことじゃねーよ!!」
東堂が何を指して、自分より大人だと言ったのかマルにわかると、真っ赤な顔ををして反論してしまう。経験が無い訳ないが、マル自身があまりそういった欲が湧かないのだ。
なので、お付き合いしていた子達とも深い仲になること無く自然消滅してしまう事が多かった。
「マルさん、顔も性格も悪くないのに・・・それに、αだろ? なんでうまくいかねーんだろな?」
「はぁ・・・、オレも知りてーよ。 まぁ、それこそ「抑制剤」飲んでるからかもな。オレには、あの子達のフェロモン感じねぇしな・・・。それこそ、運命の番でも見つかりゃ違うのかもしれないけどな・・・。」
「・・・運命ねぇ・・・。」
「っと・・・」
東堂が、母親に性的虐待を受けていた要因の一つに「運命の番」があった事を思い出し、思わず口を噤んでしまう。
本来なら、出会える事は素晴らしいモノだと言ってあげれるのだが、東堂に限っては違う事をマルは知っていた。だから、東堂が「抑制剤」を飲む理由が運命に背きたい事だと知っているから、やめさせたくても無理には言えなかったのだ。けれど、最初にあった頃よりもどんどんと薬の強さが強くなっているのを黙って見ていられるほど、マルは東堂を他人と割り切れなくなっていた。弟よりも手のかかる弟。そう思ってもいた。
「俺は、運命とかいらない・・・。」
「・・・そうか・・・。まぁ、別にΩじゃ無くてもいんじゃね? 可愛い女の子とかさ、βでもいるだろ?」
「・・・別に。βの女は・・・興味無い。」
「まぁ、お前はあの辺りじゃ、有名だしな。 いい加減、固定の相手作れよ。そうしたら、補導されなくて済むんだぞ?」
「・・・。」
そこから無言で東堂は部屋に着くまで、窓の外へと顔を背けてしまった。
・・・これも、地雷だったか。
東堂が補導されるのは、夜の相手を巡って相手が騒ぎ立ててしまうのが主な原因だった。
繁華街に相手を探しに出歩いている時もあるが、ほぼ毎日現れる東堂目当てのΩやαは少なくなかった。ただ、東堂がΩを相手する事が無いのと、βの女ばかりに相手にする事で、αの女が喧嘩を吹っかけてきたりする事が暫しあった。
こいつにも、ちゃんと大事に思える相手ができるといいんだけどなぁ・・・。
まだ、高校生の東堂を部屋まで送り届ける。
一人で住むには十分だが、玄関からでもわかる生活感の無い部屋。
「・・・一緒に寝てやろうか?」
「はぁ? 何、言ってんの?! あんたホモかよ!?」
「あ?? ちげーよ!! こんな所一人で寝るの寂しだろうと思ってだな・・・。」
思わず、赤面しながら言っても我ながら説得力が無いな。
「ふはっ。 あんた、焦りすぎ。・・・今日は・・・・大丈夫だよ。」
「そっか・・・、ちゃんと明日も学校行くんだぞ!!」
なーんて可愛い時期もあったのになぁ・・・。
容赦になく鼻を折られ、顔面から血を流して倒れているΩを見下ろしながら
「本当、さっきの子に会わせて貰わなきゃ割に合わないな。」
そう漏らした顔はどこか楽しそうにも見えた。
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