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公平おじさん
尊たちが搬送された病院へ着く頃には、大分夜も遅くなっていたが事前にマルが連絡をしてくれていたのか、すんなりと病室まで案内してもらえた。
控えめにノックをし、中へ入ると
ベットの側で祈るような格好で尊が座っていた。
「尊?」
「と・・・東堂・・・・なんで・・・」
ポロポロと涙をながしながら、東堂の名を呼ぶ。
その姿に、東堂の胸が締め付けられる。
ああ、泣かないで。
「・・・尊・・・。 おじさんが起きちゃうから、外で話そうか。」
「けど・・・おじさんの側にいたい・・・」
「そっか。 じゃ、もう少しここにいようか・・・。」
尊の横に座り、優しく抱きしめる。あのΩのした事は逆恨みでしかないが、その事で尊がもし自分との事に罪悪感を覚えたらと思うと、なんとも言えない気持ちに東堂はなった。
事件の話を警察から簡単に聞いていた尊に東堂が知っている事を付け加えて説明し終わる頃には、尊の涙もとまっていた。
「それじゃ・・・お、オレのせいで・・・」
・・・尊のせい?
それは違う・・・そう言いかけた時、ベットの公平が目を覚ました。
「・・・ミヤ君?」
「お、おじさん!!」
「・・・ミヤ君、今回のことは・・・気にしないで。そもそも、僕が彼を雇わなかったらよかったんだから・・・。」
「そ、そんな! おじさんのせいじゃない。」
「でしょ? だったら、ミヤ君のせいでもないよ・・・」
「けど・・・」
二人ののやりとりを静かに見守っていた。
公平の言っていることは、東堂が尊に言いたかった事。 きっと、自分が言うより公平から言われた方が尊には伝わる・・・そう思っていたら、急に自分に話を振られ、少し驚いてしまう。
「・・・東堂君、尊の事、守ってくれてありがとう。」
「いえ・・・むしろ、連絡をしてしまった事で危ない目に合わせてしまってすいません。」
そう、あの時連絡していなければ、あのΩは何もしなかったかも知れなかった・・・だからこそ・・・そうさせたく無かったから、俺はこの人に連絡をした。それも、この人はわかっている。
「僕が、連絡をしてと言ったんだ。気にしないでくれよ。」
そう言って微笑んで見せた顔に嘘は無かった。
「それに、彼、誘発剤使ったんだろ? 君こそ、大丈夫だったかい?」
心配そうに公平が東堂を見た。
βである公平には、誘発剤を使われたαの状態なんてのは、自我を失くし、そのΩを暴行するようなαのニュースでしか見た事が無かった。
その言葉に、尊の肩が一瞬揺れた気がした。
「ええ、まぁ・・・。昔から、その手のには慣れているので・・・。」
だから、俺は普段から抑制剤を飲んでいます。とは二人には言えなかった。
けれど、東堂のその顔を見て公平はそれ以上何も東堂には聞かなかった。
「・・・αてのも、大変なんだな。」
その言葉は、東堂に対する同情の言葉にもとれたが、東堂自身はその言葉は自分に向けられたものでは無い気がしていた。
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