82人が本棚に入れています
本棚に追加
お泊まり期間
「えっと・・・しばらくお世話になります。」
玄関の入り口で立ち止まった尊が、東堂にそう言って軽く頭を下げた。
なんか、嫁入りみたいだな・・・・。
とか、考えてしまった東堂に、顔を上げた尊が不思議そうに見つめられる。
「・・・あ、ああ。これ、合鍵・・・。」
思わず、そっけない口調でポケットから出した合鍵を高雅は尊に渡してしまうが、特に気にした様子が無い尊に「ありがとう」と言われて、ため息をついてしまう。
尊が高雅の部屋に持ってきた荷物は、小さめのボストンバック一つだった。
チェックのシャツが2枚とTシャツに下着と黒のパンツとジーパンが1本ずつ。
あまりにも少ない荷物に、思わず「それだけか?」と高雅は言ってしまった。
「んー、あんまり、服とか興味なかったから・・・。」
「よし! 服買いに行こう!!!」
「え・・・?!」
元々、ファッションに興味のなかった尊は、着れれば何でも良かった。それは、バースが変化する前からで、変化したあとは特に自分の容姿にも無頓着だった。最低限の身だしなみは接客業だからと公平には言われていたが、それ以上の事をする気にはなれなかったのだ。
Ωの自分が他人にどう見られているのかなんて尊は興味も無かった。
そんな気持ちも高雅は理解できたが、それよりも高雅は尊の事を着飾りたくて仕方が無かったのだ。
高校の時よりも、肌の色は白く透き通る様で、すぐに高雅の愛撫に朱に染まる体は扇状的で、手に吸い付くような肌理の細い肌質は、ずっと触っていたくなる程なのに、その肌を隠す服は野暮ったく、酷くアンバランスに見えた。一度も染めたことの無い髪は、ツヤツヤと光輝き、無造作に耳に掛けただけなのに、小さな顔に大きな瞳のせいで、中世的でどこか妖艶さを時折みせたりした。けれど、顔に髪がかかるのは、尊の顔が見れなくて嫌だと思った反面、あの小ぶりな尊の耳に髪の毛をかける仕草は可愛くて、好きだった。
「よし!! 美容院も行こう!」
「えええ??????」
高雅は尊と出かける様になって、他人の視線が気持ちいいと感じる事と同時に今まで感じたことの無い怒りや焦燥感を知った。それが、優越感や嫉妬だという事も。
尊を自慢したいけれど、誰にも見せたくない。
そんな気持ちは今まで知らなかった。
けれど、知れば知るほど、高雅の中で不安が広がっても行った。尊に運命の番が現れたら・・・?
自分の元からいなくなってしまう前に、この白く細い首筋に噛み跡を残して仕舞えば自分のものになるのに・・・。そう何度も思った。
けれど、それは出来なかった。
したくなかった。
毎回、抱き潰すセックスの度に尊の背中側のネックガード周辺は鬱血痕だらけになっていた。
疲れて眠る尊の体を抱きしめるまで、高雅は安心する事が出来なかった。
今日も、大丈夫。そう、自分に言い聞かせて、気がついたら尊の飲み物に抑制剤を混ぜる様になっていた。
自分が手渡す飲み物を疑いもせずに飲む姿にも、言いようの無い安心感と優越感を感じていた。
それと同時に、尊から感じていた香りが薄くなっている事に不安も覚えていた。
「東堂? どうかしたのか?」
車のキーをに握りしめたまま、固まってしまった東堂を覗き込むように声をかけると、少し驚いた顔をされたが、すぐに微笑まれる。
「東堂? オレ別に、美容院とか行かなくてもいいんだけど・・・?」
「・・・俺が、可愛い尊を見てみたいんだ・・・。嫌か?」
「い、嫌というか・・・。」
東堂を覗き込む形で、見上げてた尊の背中が玄関扉に打つかる。
いつの間にか、挟み込まれる形で逃げ場の無くなっていた尊の頬に、東堂の手が伸びてくる。
東堂の顔が尊の顔に近づくと、何度と繰り返された行為に目を瞑って待つ尊にキスをする。
軽く触れるだけのキスに少し物足りなさも感じたが、このまま玄関で組み敷いてしまいそうになる衝動を抑えて尊から離れようとした。
その瞬間、尊の顔がスッと近づいたと思ったら、高雅の唇にチュッと小さな音を立てて、離れた。
驚いた顔の高雅に、尊が今までに無い顔で微笑む。
この笑顔を失いたくない・・・
そう思うのと同時に尊を胸に抱き寄せていた。
「東堂? どうかしたのか?」
東堂の背中を撫でると、尊の背に回る腕に力が入る。
自分の腕の中にすっぽりと収まってしまう尊の体の薄さに、胸が締め付けられた。
・・・細過ぎる。
尊が部屋にいる間に、体重を増やすことを心に誓った高雅だった。
最初のコメントを投稿しよう!