財布の紐はどこかにいった。

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財布の紐はどこかにいった。

「はぁ・・・、東堂これ、買いすぎじゃない?」 車の後部座席に置かれた紙袋の山に思わずため息が漏れる。 高雅は、片っ端から尊に服をあてては気に入った物を買っていった。 最初は、値段を気にしていた尊だったが、高雅が楽しそうに買い物をしている姿を見ているうちに気にするだけ無駄だと悟り大人しく着せ替え人形になっていた。 その結果が、後部座席の山だった。 「こんなに着る機会無いと思うんだけど・・・。」 「別に、服なんて何枚あってもイイだろ?」 「そうだけど・・・。まぁ、少しづつになるかもだけど・・・、このお金は東堂に返すから。」 「えっ?! 俺が尊に着せたかったんだから、金なんかいらない。」 「それは、オレが納得できないからヤダ。」 思わず高雅は運転中にもかかわらず、二人共見合ってしまう。 信号が変わり、後ろからクラクションを鳴らされ、慌てて車を走らせる。 少し走って、尊の方を盗み見る。まだ少し拗ねてる尊にため息を一つついて、高雅が先に折れた。 「じゃぁ・・・・割り勘でいいか?」 高雅のその言葉に、嬉しそうに尊が頷く。 尊も、高雅に服を選んでもらうのは嬉しかったから、ただプレゼントされるだけでは嫌だった。 そんな尊の気持ちを高雅は理解できなかった。 誰もが羨むα性。 自身も成功している青年実業家。 けれど、高雅はどこか満たされる事がなかった。 それを埋めるかの様に、尊に服を買った。買っている時は、色々と想像しながら何とも言い難い多幸感を感じれたのに・・・、店を出たらそれもすぐに薄れていった。その繰り返しで、気がついたら大量の紙袋を手にしていた。 それでも、何点かは尊によって却下されたりもした。 今まで、夜を共にした者達の中には、その見返りに高価な服やバックを強請る者や、頼んでもいないのに部屋に上がり込もうとする者も東堂の周りにはいた。なのに、尊は何も自分からは強請らない。高価な物を強請る様な性格じゃない事に好感は持てたが、東堂は安心したかったのだ。 常に、求められなければ、自分の存在する意味を見失いそうになった。  あのリストに尊が載っているのを見た瞬間、身体中の血液が沸騰するほどの熱を感じた。 あの日、偶然出会って尊を知って、もう手放せないと思った。 だけど、リストに載ってしまっている以上、運命の相手が他にいるかも知れないと思ったら、居ても立っても居られなかった。 リストの停止を申請しても、停止される迄の期間は長くて半年。 それまでに、もし尊が自分以外のαを前に発情したら? それなら、発情なんて来なければいい。
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