東堂高雅の主治医は・・・

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東堂高雅の主治医は・・・

「おい、高雅。急にきたと思ったら、抑制剤くれって何だよ。」 白衣の下にTシャツというラフな格好をした、若い医師が患者である東堂の事を呼び捨てにするのは、彼が高雅より少し年上なのと、高雅の事情を知ったマルから紹介された相手だった。その頃はまだ、駆け出しの研修医だったが、学生だった東堂にはその位が良かったらしく、今では東堂の主治医のような関係になっていた。 「ああ、手持ちが少なくなって・・・。」 「はぁ? お前、また無茶な飲み方してんのか?」 カルテを入力する手が止まる。 通常の抑制剤で、一回飲めば一日中はΩのフェロモンに当てられる事はなく過ごせるが、ヒートを起こしたΩとの接触は巻き込まれる事もある。 それより強めの物で、その可能性をより抑える事のできる物もあるが、それは刑事や医者、不特定多数の人間と関わらなければいけない職業、他に医師が必要と診断された者のみへの処方薬だった。東堂は、この強めの抑制剤を高校時代から飲んでいた。効果は3日飲めば、1週間は持続する物だが、東堂は学生時代は毎日飲んでいた。その所為で、東堂自身もαとしてのフェロモンの暴走は一度もなかったが、会社を立ち上げた時に、疲労と抑制剤の過剰摂取で東堂は倒れた事が有った。 それ以降は、比較的落ち着いてきたと思ったのに・・・ 東堂の顔色を見ると、疲れなどは一切感じなかった。 「 ん? 顔色は良さそうだな? 」 「まぁ、前よりは仕事も落ち着いてるし、食事もとってるからな。」 「いや、なんかこうメンタル的なもんじゃないか? 肌艶良いぞ?」 改めて医者にマジマジと見られて、尊との事まで解ってるんじゃないかと、少し恥ずかしくなる。そんな反応に、つきあいの長い医師は驚愕してしまった。 え?!あ、あの高雅が赤面?!え??????一体何が?????!!! 「で、抑制剤。処方して欲しいんだけど?」 「あ、ああ。解った。今までのより少し弱めのなら、多く出してやる。」 「・・・それなら、緊急キットも出して欲しい。」 「はぁ?! 緊急キットって、お前Ωの近くになんか・・・まさか、できたのか!?」 強い抑制剤を常用している高雅が、Ωと事故を起こす事は医学的には無い。 行為的に、密室でヒートを起こしたΩと長時間いたり、心身共にリラックスした状況で密着をしてたりしなければ、高雅の様に長期間抑制剤を服用している人間が、緊急キットなんて物が必要になることは無いはずだが・・・・。 「相手は、Ωなんだな。」 フンっと顔を背けた高雅の態度で、相手がΩである事に間違いは無いと確信した。 思わず、にやけそうになると不貞腐れた高雅の冷たい声が聞こえてきた。 「・・・で、出すのか?出さないのか?」 「ああ、一回分だけ出しとくよ。抑制剤の方は弱めの物を、通常より1週間分多くだすよ。」 「解った。」 「まぁ、今までのよりは効きにくいかも知れないけど・・・。」 にやけてた顔から真面目な顔に変わった医師を高雅も真剣な顔で見る。 高雅に負けない美形の医師は、Ωの男親がレイプされて産まれた子だと前に高雅に教えてくれた。だから、抑制剤使用に関しては厳しくも寛容だった。そんな医師が真剣な顔で高雅に、話始めた。 「もし、お前がそのΩとの間に子供が欲しいと思うなら、抑制剤の使用を控えいく必要がある。その時は、お前とその子が番になってる事が望ましい。 その意味わかるよな?」 番になれば他のフェロモンに惑わされる事はなくなるが、今までフェロモンにあてられる事なく過ごしてきた高雅にどれだけの負担があるのか・・・。主治医の立場として、友人として高雅には抑制剤の過剰摂取はやめて欲しかった。 「ああ、その時はちゃんと検査受けるよ。」 「そうしてくれ・・・。あと、今度、相手の子も紹介してくれよな!」 「・・・・それは断る!」 「何でだよ〜!! オレに番いるの知ってるだろ!!」 「それでもだ!!」 ムキになる高雅が面白くなってつい揶揄ってしまう。 こんなに表情を表にだす高雅は珍しかった。だから、高雅には幸せになって貰いたかったが・・・まさか、自分の処方した抑制剤を相手の子に飲ませていたなんて・・・。 相手の主治医から、問い合わせが来た時は足元が崩れる様な感覚だった。
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