音羽医師の主治医は息子

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音羽医師の主治医は息子

先にあの場から運ばれた音羽は、かかりつけ医の病院で処置を受けていた。 血だらけの白衣は、運ばれる時に警察が回収していったおかげで見た目には重傷には見えなかった。そのおかげで、駆けつけた若い医師も軽口を言いながら怪我の状態を確認し始めた。 「はぁ・・・。警察から連絡を貰った時は、冗談かと思ったけど・・・。これは・・・」 「えー、そんなにか? もう、痛みとかあんまり感じねーんだけどなぁ・・・。」 「・・・手首と、足首の裂傷に関しては、そこまで酷くないけど、顔の打撲(これ)は・・・。 鏡見てねぇから、んなこと言えんだろ。」 その言葉に、ギクリとしながら自分の襲われた時の事を音羽は思い出していた。 部屋のドアを開けた時に後ろから襲われ、その時に下手に抵抗して相手を逆上させてしまったせいで、顔を思いっきり殴られた。その衝撃と痛みで、音羽は動けなくなった。その痕が、今は赤黒くなっていた。 まだ、気持ちが昂っている所為で痛みを感じていないが、当分の間は痛みが出る事は音羽自身もわかっていたが、余計な心配をかけるつもりも無かったので勤めて明るく振る舞った・・・・・ が、それが裏目に出てしまった。 「まぁ、あいつナイフ隠し持ってたらしいから・・・、刺されなくて良かったわ。」 「はぁ!!?? オト、それ本気で言ってるのか?」 「・・・・・・・やべ。」 手にしていた包帯を握りしめ、若い医師の鋭い視線が音羽に刺さる。 「おい、オト。何があったのか、全部言え。 義兄さん(あいつ)は今回の事件に付いて、雫(しずく)に聞かせたくないって言って、オレには一切何も内容は話さなかった。一体何があったんだ?」 「い、いやぁ・・・。ってか・・・・雫君に?」 「ああ、そうだよ。・・・なんだ? オトも何か知ってるんじゃないのか?」 「え・・・いや、僕はただ、受け持っていた患者の子に、うちの看護師が変な行動をしてたから・・・、警察関係者を紹介したくて、あの日クリニックに来てもらったんだけど・・・・。」 「・・・看護師? ・・・それって、オトの病院のか?」 「ああ、そうだけど・・・そういや、前職はこの病院じゃなかったか? 確か、α専門の・・・・」 ガシャン!! その言葉を聞いて、思わず横に有ったワゴンを倒してしまう。 「ちょ・・・、望?! 」 「いや・・・。足が滑った・・・。」 さっきまで鋭い視線を向けていたのが、逸らされる。 その仕草に、音羽は心当たりがあった。 それは、小さい頃に望が音羽に隠し事をしている時にする仕草。 「・・・・望、お前の知ってる事を全部、パパに言いなさい。」  「っつ!!」 今度は、音羽が問い詰める番だった。 最初は、ただの偶然だと思っていた。患者を呼びに来た看護師がたまたま、ミヤ君の学校の先輩だっただけ・・・だと。ただ、気にして見てみると、彼はミヤ君の通院日にシフトを重ねている様だった。仲の良かった先輩後輩なのかとも思ったが、ミヤ君から彼の話を聞いたことが無かったし、ロビーで見かけた時もミヤ君を監視するように見ていたのが気になっていた。 元々、彼がコネ就職なのを知っていた事も有り、彼の事は知っていたが・・・、自分を見る目がΩを見下している様にも時折見えた。そんな彼が、Ωであるミヤ君にはやたらと執着をしている感じが気になっていた。 それでも最初は、気のせいだと自分に言い聞かせていた。 よくある環境におけるバース性のモノなんじゃないか・・・と。  けれどその考えは、間違っているんじゃないかと思い始めたのは、採血キットの数が合わなかった時だった・・・。 何かがオカシイ・・・。 けれど、まだ、心の中のどこかで同じ医療の道を選んだ者への信頼したいという音羽の願いも有った。カルテの切り端を事務局のシュレッダーに挟まっているのを見るまでは・・・ あの切れ端を見た瞬間に、このままミヤ君を病院へ呼んではいけないと思った。 それから、息子の番に警察関係者がいたのを思い出し、クリニックに来て貰う様にお願いをした。それが、雫の兄。水谷零だった、彼は望とは義兄となる。 その彼が、ミヤ君の彼と一緒に助けに来るとは思わなかったけど・・・。 望と呼ばれた医師が、苦虫を噛み潰したよう噛み締めた顔で音羽に告げた内容に、音羽が今度言葉を失う。 「・・・多分、その看護師は雫(しずく)の元ストーカーだ。」 「え・・・?」 「雫に対するストーキング行為と、弟の澪に対する暴行でそいつは此処をクビになったんだ。」 「そ、それは・・・どういう・・・。」内容の・・・とは流石に続けられ無かった。 助け出された時、救急隊が話している内容が聞こえてきが、それは想像するのに耐えれない状況だった。 「詳しい事は、言いたくない。けど、もしその看護師がそいつだったら・・・。いや、そいつだから・・・、雫には言いたく無かったのか・・・。」 今にも、人を殺してしまいそうな怒りを滲ませた望のその顔を見て、音羽も何かを察した。 「望・・・。今、お前達が幸せなら、それを大切にしなさい。」 「・・・オト。」 この子には、親らしい事をしてあげれ無かったけれど、こんなにいい子育ってくれていると音羽は思った。 顔の半分がガーゼで隠れていたが、優しく音羽は微笑んだが、その微笑みが、段々と廊下から聞こえてくる足音に強張っていく。 「・・・・と、ところで・・・望・・・もしかして、あいつに連絡したのか・・・?」 「・・・当たり前だろ? そんなの、オレが涼平さんに隠せる訳ないだろ。」 望は音羽の顔を指さし、ため息をつく。 バアン!!!!!!!!  「 おぉぉぉとぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」 「ちょ! 涼平さん!!!!ドア壊れる!!!」 勢いよく入ってきた男が丸椅子に座っている音羽を抱きしめる。 その姿は、大型犬が飼い主に突進してくる様では有ったが、その威力は凄まじかった。 「ちょ・・・・、く、苦しい・・・。」 「オト!! 何この顔!! 僕の天使が!! 一体、何があったんだ!? 」 男が優しく音羽の顔を包み込むが、すでに圧が強い。 そして 「うざい。」  しがみついて離れないこの男は、音羽の番。 年上の音羽に猛烈アタックを繰り広げ、やっと番になった涼平は、いつでもどこでもこんな状態で、常に音羽にウザがられていた。 「だって!! オトの白く透き通る頬にこんな!!!! でっかい、ガーゼがついてるとか・・・。え・・・何、この包帯・・・。・・・望? どういう事・・・?」 音羽の手や足に巻かれている包帯を目にした瞬間、男の背中からどす黒いオーラが噴き出たように見えた。絶対的支配者の出す威嚇のオーラは、同じαでもある望を萎縮させるのに十分すぎた。 思わず息を呑んでしまった望が必死に何も知らないと訴えた。 「ひゅッツ・・・。 お、オレは何も・・・・」 「・・・本当に?」  望はただ頷くだけで精一杯だった。そんな2人を見ながら、音羽は事情を知っている。男の姿を思い浮かべていた。
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