公平おじさんと叔父さん (1)

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公平おじさんと叔父さん (1)

別れはいつも突然だ。 親友の死を聞いた時は、足元が崩れ落ちるかと思った。 けれど、親友の忘れ形見が目を覚ました時は、今度はこの子の為に居場所を作ってあげたいと思った。  寝ている尊と高雅を公平は、静かに見ていた。 椅子に深く座り、ボロボロになった写真を取り出した。そこには、幼い頃の公平と尊の父と、もう一人。 オレ達は、いつも何をするのも3人一緒だった。 そうβのオレは思っていた。 「コーちゃん!!また、喧嘩したの!?」 「ウッセーな!! 女のクセに、男のやる事に口出すなよ!」 「おいおい、公平。涼子に八つ当たりすんなよ。喧嘩に負けたのは公平は弱いからだろ。」 「な!!!お前まで涼子の肩もつのかよ!!」 両親の不和から、学校に行かなくなっていたオレは、同じ様に近所で不登校になっていた涼子と知り合った。 涼子は、病気の妹の為に両親の定食屋を手伝っていたが、子供とは残酷で、定食屋で手伝う涼子を揶揄ってはいじめるようになっていた。 あの日、公園で泣いている涼子を見かけて声をかけたのがきっかけだった。 それからして、同じ公園で塾をサボっていた、尊の父とも仲良くなり、3人でいることが増えた。 そして、夏休み前に初めてのキスを涼子とした。 オレと涼子が付き合う様になっても、3人でいることが当たり前だった。 定食屋に来た、客が涼子を連れて行ってしまうまで・・・。 自分と同じβだと思っていた涼子は、実はΩだった。時折、調子の悪そうな涼子を見た事があったが、その度に涼子に「女の子は毎月大変なの」と言われれば、そういうモノなんだと疑いもしなかった。 それに、涼子の妹はβで心臓病を患っていた。それを治すには、高額な手術が必要だった。 その話を聞いて少しでも、助けになればと、オレも尊の父も一緒にバイトをしたりしたが・・・ ある日、涼子はいなくなった。そして、直ぐに妹をれて涼子の両親達は海外に行ってしまった。 それでも、オレは涼子が戻ってくると思っていた。 いつ涼子が戻ってきても良いように、オレは必死に勉強してこのカフェを作った。尊の父も、喜んで応援してくれた。カフェをオープンして、少し経った頃、涼子が戻って来た。 その姿は、今にも消えてしまいそうなくらい痩せ細っていた・・・。 そこで初めて、全てを理解した。 一度、番を持ったΩは相手のαの死後、新しく番を持つ事が出来たが・・・・ βのオレは涼子と番になる事はできなかった。番を持てないまま、涼子は苦しいヒートを抑制剤で抑えていた。それは、涼子自身が望んでいた事だった。 それでも、涼子が帰ってくる直前に、産まれた尊がいたからオレ達は幸せだった。 自分の子供の様に涼子も可愛がっていた。けれど、涼子は徐々に衰弱していき、尊が小学校に上がる前に亡くなってしまった。最後まで、涼子は自分の子供の事を口にする事は無かった。 ただ、息を引き取る直前まで尊の手を握っていた。 その尊が、今度は一人になってしまった・・・。 バス事故のニュースを見て病院に駆けつけた時、尊がΩだと知った親族達が揉めていた。 保険金は欲しいがΩの世話はしたくない、そう騒いでいた。元々、尊の父は尊の母との結婚を機に親から勘当されていた。それならば、自分が面倒見ると尊の親戚達に啖呵を切った。 それなのに、今 自分の目の前で、尊があの時と同じ様に病院のベットの上にいる。 また、オレは自分の大切なモノを守れないのか? 思わず、手にしてた写真を握りしめてしまう。 カラン 「初めまして。私、宝城雅と申します。宮嶋尊さんの事で少し話を宜しいでしょうか?」 そう言って、改装中のカフェにスーツを着た男が現れたのは、公平は退院してすぐだった。 カウンターの中で棚の整理をしていた公平が、怪訝そうな顔を向けるが、気にする様子もなく男はカウンター席にそのまま座った。 「・・・宝城って、あの宝城グループのか?」 「ええ、そうです。そして、東堂高雅の叔父でもあります。」 ピクリと公平の片眉が上がる。 「・・・その叔父さんが何の用だ?」 「あぁ、そんな顔しないでください。私は、ただ高雅の尻拭いをしに来ただけです。」 「・・・尻拭いだと?」 「ええ、あれでも私には可愛い甥なんですよ。」 「その可愛い甥の尻拭いとはなんだ?」 カウンターの雅に、コーヒーを入れ始める。 コーヒーの香りが漂う。 「いい香りですね。」雅が思わずそう呟やく。 「当たり前だ。」 公平が自分のカップにコーヒーを入れ、雅の前にもカップを置いた。 「どうも。うん・・・いい香りだ。」 「で、その尻拭いとやら聞かせてもらおうか?」 雅は、高雅の過去の話。抑制剤の事を話した。そして、一つの可能性の話をし始めた。 その話を聞き終えた、公平は雅を睨みつける様にカウンターの上を見る。 話を終え、置かれた封筒。 「これは、なんだ?」 「コーヒー代ですよ。」 一眼でわかる厚みが、コーヒー代という額でない事は見て解った。 そして、この男の言いたい事も・・・ 「それにしては、額が多いんじゃないか?」 「そうですか? ああ、足りませんか?」 スーツの内ポケットへ手を延ばすのと同時に バンッ!!!! カウンターに公平が両手を叩きつけた。 一度、涼子の番だった男の秘書が涼子の死後に来た事があった。  その時も、同じ様に札束と一枚の誓約書を持ってきた。 「こちらは、涼子様を保護して頂いた謝礼と・・・・」 そう言って、だされた誓約書の中身に唖然とした。 けれど、公平はそれにサインをした。涼子がそう望んだからだ。 涼子の死後、1通の手紙が公平の元に届いた。消印から、涼子が亡くなる前に投函したんだと解った。そこには、秘書と名乗る男がきたら、何も言わずに言われるまま処理をして欲しいと書いてあった。その事に、公平は悲しさよりも怒りがあったが、愛した者の最後の我儘と思い、目の前に置かれた札束と誓約書にサインをした。 その時とまるで同じだ・・・・ 目の前にいる男は、高雅の叔父と名乗った。 「尻拭いに来た」と・・・ それが、どういう事なのか解らない程、子供では無い。 高雅が尊にした行為は、許されない事だとは解っている。 けれど、病室の尊の姿を思うと、この男がしている事に公平は怒りを露わにしてしまった。 「多いって言ってんだろ!!! ふざけてんのか!!!!! 尊が、高雅を選ぶならオレはそれで良いと思ってる。だからこれは、受け取らないし必要ない!!!!!」 金をカウンターから払い落とし、カップに残っていたコーヒーを目の前の男にかけた。 その行動に、雅が思わず声を出して笑った。 見るからに質の良いスーツには、コーヒーの染みが広がっている。 そんな事は気にする事もなく、ポケットからハンカチを取り出し、顔に跳ねたコーヒーをゆっくりと拭きとる。 「な! お前、何がおかしい!! さっさと、それ拾って出て行けよ!!!」 「いえ、高雅もあなたの様な方が、義父さんなるなら幸せになれそうだ。」 そのまま、ハンカチをカウンターに置き、「コーヒーのおかわりをいただけますか?」と続けた。 「お前に出すコーヒーはもう無い。」 「そうですか、それは残念。 では、私の可愛い甥の尻拭いの話を、聞いていただけますか?」 「・・・はぁ? 話なら、さっき・・・」 「さっきまでのは、あくまで事実を述べただけです。」 そう言ってニッコリと微笑む男の顔に、公平はすっかり毒気を抜かれてしまった。 コーヒーの良い香りが、雅の前に差し出された。 「それは、スーツのクリーニング代だ。持って帰れよ。」 払い落とした金を封筒に入れ、公平は雅の隣に腰かけた。 口元に、笑みを浮かべ目の前に出されたカップに雅は口をつけた。
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