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「今ここで、私の化けの皮が剥がれたとしたら善と悪、どちらが残ると思う?」
彼女は氷を全て取り除いたアイスカフェラテをストローで吸い上げたあと、偽りのない無表情でまた意味の分かり難い質問をしてきた。
この質問を彼女からされたのは今日で2回目だ。
「そうね…、私には今此処にいる貴女が善人にも悪人にも思えない。だからどちらも残らないと思うわ」
「ずいぶんはっきりと言うのね、以前は「分からない」の一点張りだったのに」
「それは、あの時はまだ貴女に興味も関心もなかったからかもね。学校にいる時の私に対する貴女みたいに」
私は少しだけ嫌味な言い方をしてみたけれど、彼女は表情を変えることなく再び色の濃いカフェラテを吸い上げた。
排除された氷たちはグラスの中で液体化してしまっている。
私はその液体に少しだけ同情した。
「好みに合わないからって、簡単に切り捨てられるなんて」
「可哀想?」
「いや、惨めだなって」
「そうね。でも、かえって別々になった方がいい場合だってあるでしょう?」
そう言って彼女はグラスに移された透明な液体(元氷)を一口飲んで、言葉を続けた。
「別に氷自体は嫌いじゃないのよ」
「ねぇ、もしかしなくても私に例えてる?」
「あら、違った?」
「いや、違わないけど」
無意識のうちに氷に感情移入をしていたのを彼女に悟られていたみたいだ。
「さっきの質問、ちょっと変えても良いかしら」
「どうぞ」
「学校にいるときの私は、偽善者?それとも偽悪者?」
「また分かり難い質問。そんなの判断つかないよ。まぁでも、あの子達にとっては偽善者で私にとっては偽悪者…だったらいいなと思ってる」
私がそう言い終えると、彼女の頬がほんの僅かだけ緩んだように見えた。
「あの子たちのグループに戻りたい?」
「そりゃ戻りたいよ。ずっと1人なんて惨めだもん」
「誰か1人を排除して、平気で陰口を叩くグループに?」
「だって、今更他のグループには入れない」
「無理して合わない場所に戻るより、1人の方が気楽じゃない?」
「混じりっ気のない氷は綺麗よ」なんてまた意味不明なことを呟いて、彼女はグラスの中身を再び口に含んだ。
「だったらどうして貴女はあの子達と一緒にいるの?」
「そうね…、1人は惨めだから、かしら」
「なにそれ私と同じじゃない」
「そう、同じ。だけどそろそろ限界みたい」
「何が?」
「あなたの悪口を聞いていることが」
「だったら…」
私と一緒にいればいいじゃない。そう言いかけた言葉を引っ込めて、彼女を軽く睨みつけた。
「今あなたの所に行くのは私にとっても、あなたにとっても、リスクが高すぎるのよ」
「どうして?」
「今私があなたの味方に付けば私は恨まれ、あなたへの攻撃も止まらない。そんなの面倒くさいでしょ」
「だから、お互いに1人でいるってこと?」
「そう、暫くの間はね」
まだいまいち彼女の意図を理解しきれていない。私は色が薄いアイスカフェラテをストローで吸い上げた。確かに味が薄れて正直美味しいとは言えない。
「1人が自ら輪の中から外れると、決まって1人、もう1人と去っていく。人間の心理ってそんなものじゃないかしら」
「確かにそうかも知れないけれど」
「そして大きかった輪は、2か3くらいの小さいグループに分散されて、だんだんと勢力を失っていくの」
「つまり、熱りがさめるまで待って、冷めたら2人になるってこと?」
「うん。ずっと2人でいましょう」
「…ずっと?」
「うん、ずっと」
「もし、熱りが冷めなかったら?」
「そのときは、2人で駆け落ちでもしましょうか」
「なにそれ、ばっかみたい」
そんな話をしながら、私達はそれぞれ味の違うカフェラテを飲み干した。
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