孤毒

2/9

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 カラン、と溶けた氷がグラスの中でバランスを崩した。それに追い打ちをかけるようにストローでガラガラとかき混ぜる。  目の前に座っている莉奈は、7本目のタバコに火をつけたので、ストローを回しながら問うた。 「一日に何本吸うの?」 「ん〜、一箱は消費しない程度」 「一箱って何本?」 「20本」  人間が一日に吸う平均本数も、限度本数も知らないが、ほんの3時間で7本はさすがに多いのではないだろうか。テーブルに置きっぱなしの箱を取って銘柄を見る。赤い帯に英字が浮き上がっていた。 「…厶ぁ…、マー…ル?」 「マルボロね」  煙を吐きながら答える様子に、少しバカにされたような気がした。つっ返すようにタバコの箱を置くのを見て、困ったように笑われる。  大学進学と共に上京して、こうして帰ってくるのは成人式以来だ。よって莉奈と会うのもそれ以来で、互いに23歳。3年の間に結婚する人もそれなりにいたが、私も莉奈も独身、彼氏無しである。  高校の同級生で、高校3年間は莉奈と共にあった。でも卒業と同時に莉奈は地元に残って、私は上京してしまったから離れ離れ。SNSが普及している現代でも、物理的距離があればそれなりに疎遠になってしまう。  とはいえ。高校卒業してから2年、成人式で会ってから3年、計5年で人はこんなに変わるものなのか。灰皿の中の無惨に押しつぶされたタバコたちを見て、思わず眉間にシワを寄せた。 「莉奈、なんかデザート頼む?」 「ううん、太っちゃうから要らなーい」  押しつぶされたタバコたちの中に、たった今グリグリと仲間が加わる。煙が細くなって、しばらくして消えた。  莉奈と待ち合わせしていなければ、きっと私は彼女に気づけなかった。それくらい彼女はあの頃と変わってしまった。タバコを吸う肺はあるのに、デザートを入れる腹はないと言う。この絶望感を一体どう表現すればいいだろう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加