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カラン、と溶けた氷がグラスの中でバランスを崩した。それに追い打ちをかけるようにストローでガラガラとかき混ぜる。
目の前に座っている莉奈は、7本目のタバコに火をつけたので、ストローを回しながら問うた。
「一日に何本吸うの?」
「ん〜、一箱は消費しない程度」
「一箱って何本?」
「20本」
人間が一日に吸う平均本数も、限度本数も知らないが、ほんの3時間で7本はさすがに多いのではないだろうか。テーブルに置きっぱなしの箱を取って銘柄を見る。赤い帯に英字が浮き上がっていた。
「…厶ぁ…、マー…ル?」
「マルボロね」
煙を吐きながら答える様子に、少しバカにされたような気がした。つっ返すようにタバコの箱を置くのを見て、困ったように笑われる。
大学進学と共に上京して、こうして帰ってくるのは成人式以来だ。よって莉奈と会うのもそれ以来で、互いに23歳。3年の間に結婚する人もそれなりにいたが、私も莉奈も独身、彼氏無しである。
高校の同級生で、高校3年間は莉奈と共にあった。でも卒業と同時に莉奈は地元に残って、私は上京してしまったから離れ離れ。SNSが普及している現代でも、物理的距離があればそれなりに疎遠になってしまう。
とはいえ。高校卒業してから2年、成人式で会ってから3年、計5年で人はこんなに変わるものなのか。灰皿の中の無惨に押しつぶされたタバコたちを見て、思わず眉間にシワを寄せた。
「莉奈、なんかデザート頼む?」
「ううん、太っちゃうから要らなーい」
押しつぶされたタバコたちの中に、たった今グリグリと仲間が加わる。煙が細くなって、しばらくして消えた。
莉奈と待ち合わせしていなければ、きっと私は彼女に気づけなかった。それくらい彼女はあの頃と変わってしまった。タバコを吸う肺はあるのに、デザートを入れる腹はないと言う。この絶望感を一体どう表現すればいいだろう。
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