地元に帰る

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 私は、その事故現場にいたらしい。ほんの少しだけだったけれど、事故の現場を見た通行人として、私はインタビューに答えていた。事故のことで怯えているというよりも、興奮している様子だった。事故にあった人のことなんて考えていないかのように。そして、事故にあった人の顔写真も映っていた。その顔にも見覚えがあった。というよりも。  その写真の顔こそが、私の本来の顔だったのだ。そのことに気付いた途端、私の記憶がよみがえった。  私は地元に帰る途中で事故にあった。視界が薄れていく中で、私は、私を見ている女性と目が合った。私は自分がどうなっているのか分からないまま、その女性のことが頭から離れなかった。その女性はこちらを見て、私を助けようともせず、興味深そうに見ているだけだった。それが恨めしかった。会ったこともない、何も知らない相手なのに、ただ見ていた、というだけなのに、私はその女性を恨んだのだ。お前が私の代わりに事故にあえばよかったのに。そうしたら、そんなふうに興味深そうに私を見ていることなんてできなかったのに。そんな恨みの気持ちで、私は、彼女の体に憑依してしまったのだ。  ただ、完全に憑依してしまったのではなく、ところどころの記憶が、私のものと彼女のもので混同してしまったのだろう。そして私は、彼女の姿で、私の地元ではなく、彼女の地元に帰ってきたのだ。  気が付くと私は離れたところから、彼女を見ていた。彼女は、何が起こったのか分からないという様子で、きょろきょろと周りを見回している。私は少し申し訳ない気持ちになった。事故にあったのは結局自分のせいなのに、勝手に彼女を恨み、彼女の体を使ったのだ。けれどもう謝ることなんてできず、私にできるのは、ただ黙って消えていくことだけだった。
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