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河村さんを助手席に乗せてから、美和に後ろに乗ってと促した。
不満そうに乗り込む美和にどんどん幻滅していく。
気が滅入る。
俺に執着があるのかはわからないが、適当に追い返してもまた都合良くやって来る気がした。
はっきりと繋がりを絶っておきたい。
夜の立ち話は近所迷惑だし、美和は家に入らせたくない。
車で近所のカフェに来た。
土曜日の20時過ぎにしてはお店は空いていた。
俺と河村さんが美和と向き合うように座る。
『ごめんなさい。
彼女が出来てるとは思ってなくて…。』
上目遣いに河村さんを見る。
河村さんが『あの…』と言いかけたところを制した。
『まだ付き合ってもらっていない。
だけどこれから彼女になって下さいとお願いするところだ。』
河村さんがこちらを見たのがわかる。
不本意なタイミングの告白になってしまったが仕方ない。
今ここで言わなければおかしなことになる。
『なぜ家まで来たのかわからないし、わかりたくもない。
2度と来ないで欲しい。』
『祐司さんと喧嘩してしまって…。
頼るところが他になくて…。
最近うまくいってなくて…。』
『君に頼られる筋合いはない。
都合良く利用するなよ。』
『そんな酷い言い方…。』
涙目の甘えた顔で俺を見る。
もうこれ以上幻滅させないで欲しい。
どうしてこの子と付き合ってしまったのだろうなど、今さら思いたくない。
酷いとも思うが、穏便に済ませたいとも思っていなかった。
他に守りたいものが出来たのだから。
曖昧な情を含ませた言い回しは全てをダメにすると知っている。
『先輩に迎えに来てもらうように連絡しようか。』
『そんな…。
誠だって困るでしょう?』
『そんな心構えも考えも無しに来たのか。
これ以上呆れさせないでくれ。
俺は困らないよ。
君はもう会社を辞めている。
そして先輩との良好な関係より守りたいものが出来たから、なんだってするよ。』
美和は黙って下を向いた。
連絡すると言われて狼狽えたところからもわかる。
先輩に知られると困るんだ。
俺に執着しているわけではない。
ただ都合良く構って欲しかっただけだ。
ほんの少しの未練から’誠もまだ私に未練があるに違いない‘というありもしない妄想を膨らませて、勝手に心を揺らしたのだ。
『帰る!』
美和が立ち上がり帰り支度を始めた。
『さっきも言ったけど、2度と来るな。
何かあったら出るとこに出るよ。』
そう言うと俺を睨みつけてドアに向かった。
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