6

1/1
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

6

店を出て夜風に当たる。 冷たく乾いた風が気持ちいい。 段差でよろけた河村さんを支える。 やっぱり鈍臭くて笑ってしまう。 ごめんと言うから、そのまま強引に手を繋ぐ。 甘えベタな君をどうしたら甘やかしてあげられるだろう。 『さっきの返事はオッケーってことでいいの?』 河村さんは手を繋いだまま俺の前に回り込み、向かい合った。 涙が落ち着いた瞳は街灯に反射してキラキラしている。 『うん、もちろん』と言って微笑んだ。 『よろしくお願いします。』 ちゃんと正面から返事をくれる気遣いが嬉しい。 それを聞いて俺の気持ちも落ち着いた。 『さっきは…嫌な思いはしてないよ。 あんなに真っ直ぐに私だけを守ってくれて嬉しかった。』 ポロポロと涙が落ちる。 もう一方の手の指で涙を拭いてあげると、手を重ねてきて、そして見つめられた。 『ありがとう…誠くん。』 不意に名前を呼ばれてびっくりした。 『名前…初めて呼んでもらった。』 自分の耳が赤くなるのがわかる。 河村さんは照れたように下を向く。 『さっき元カノさんが呼んでいて…ちょっと嫉妬した。 …凄く嫌だった。』 あまり感情を露わにするタイプじゃないのに、素直に言われて胸がぎゅっとなる。 『もう名前を呼んでいいのは君だけ…圭子(けいこ)だけだよ。』 自分も名前を呼ばれて俺の顔を見た。 口を引き結んでニコっと笑い何度も頷いて、また、泣いている。 そう、もう何もかも君だけだ。 2度と『久しぶり』は許さない。 『もっと名前を呼ばれたいから今日帰るのは俺の家ね。』 真っ赤になって言葉に詰まる圭子を笑いながら、手を引いて車に向かった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!