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店を出て夜風に当たる。
冷たく乾いた風が気持ちいい。
段差でよろけた河村さんを支える。
やっぱり鈍臭くて笑ってしまう。
ごめんと言うから、そのまま強引に手を繋ぐ。
甘えベタな君をどうしたら甘やかしてあげられるだろう。
『さっきの返事はオッケーってことでいいの?』
河村さんは手を繋いだまま俺の前に回り込み、向かい合った。
涙が落ち着いた瞳は街灯に反射してキラキラしている。
『うん、もちろん』と言って微笑んだ。
『よろしくお願いします。』
ちゃんと正面から返事をくれる気遣いが嬉しい。
それを聞いて俺の気持ちも落ち着いた。
『さっきは…嫌な思いはしてないよ。
あんなに真っ直ぐに私だけを守ってくれて嬉しかった。』
ポロポロと涙が落ちる。
もう一方の手の指で涙を拭いてあげると、手を重ねてきて、そして見つめられた。
『ありがとう…誠くん。』
不意に名前を呼ばれてびっくりした。
『名前…初めて呼んでもらった。』
自分の耳が赤くなるのがわかる。
河村さんは照れたように下を向く。
『さっき元カノさんが呼んでいて…ちょっと嫉妬した。
…凄く嫌だった。』
あまり感情を露わにするタイプじゃないのに、素直に言われて胸がぎゅっとなる。
『もう名前を呼んでいいのは君だけ…圭子だけだよ。』
自分も名前を呼ばれて俺の顔を見た。
口を引き結んでニコっと笑い何度も頷いて、また、泣いている。
そう、もう何もかも君だけだ。
2度と『久しぶり』は許さない。
『もっと名前を呼ばれたいから今日帰るのは俺の家ね。』
真っ赤になって言葉に詰まる圭子を笑いながら、手を引いて車に向かった。
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