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「子どもじみた娯楽作品だけど、それがまた新鮮だってヒットしちゃって」
さすがに双子と言えど、才能までは似てなかったようだ。
「顔の傷はまだ何度か手術が必要なんです。幸い、兄は世間に顔を知られてなかったから、回復するまでは僕が頑張ろうと思ってました。お騒がせしてすみません」
夏彦さんはずっと笑顔だ。
心なしかすっきりしたように見える。秘密を抱えていたのもストレスだったのかもしれない。
アルは 夏彦さんの寂しさに
気づいていたんだね
「郁くんが、僕の本を気に入ってくれたのが嬉しくてね。仲良くなりたくて、つい油断してしまった」
大人でしかも探偵の達ちゃんには警戒していたけど、僕とアルがまさかあんな行動に出るとは思わなかったらしい。そして、何よりも僕らとの時間が楽しくて嬉しかったと言ってくれた。
『自分の作ったキャラクターに会えたみたいだ』
昨日と同じ笑顔で、夏彦さんはアルの頭を優しく撫でてくれた。アルも彼の指をぺろぺろ舐めた。
「君たちも立派なバディだね」
くすぐったい気持ちで僕はアルを抱きしめた。
「郁くん。何読んでるの」
学校で休み時間に夏彦さんの本を読んでいると、いきなり声をかけられた。この声は…
「あ、えっと、コレ…」
急に喉が詰まったみたいに言葉が出てこない。
咲花ちゃんは僕の手元を覗き込んで声を上げた。
「あ! 知ってる! それ私も大好きなの」
「ホント?」
咲花ちゃんの顔がぱっと輝いて、僕の心臓がドキドキし始めた。これはチャンスだ。
「すごく面白いね。もう二冊読んじゃった」
「主人公がクールでカッコいいし、相棒のサリーも可愛いのよね」
目をきらきらさせている彼女を見ていると、僕まで嬉しくなった。
「えっ、これサイン入りなの?」
「うん」
「いいなあ」
羨ましそうに言われて、僕はうずうずしてきた。彼女にも教えてあげたい。
僕とアルも ちょっとだけ活躍したんだよ
あれから僕たちは、時々安西家を訪ねている。
冬馬さんがアルを気に入って、会うのを楽しみにしてくれている。彼の容態も夏彦さんの気持ちも安定しているみたいだ。
でも、達ちゃんの言葉がよみがえる。
『他人のプライベートをべらべら喋るなよ。探偵には弁護士並みの守秘義務が必要だと俺は思ってる。おまえだって知られたくないことはあるだろ』
夏彦さんたちのことは、僕らの秘密だ。
それに、あんなにカッコいい夏彦さんを見たら、咲花ちゃんも好きになっちゃうかもしれないし…。
探偵も楽じゃないね
心の中でため息をつきながら、僕は咲花ちゃんとの会話を楽しんだ。
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