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散歩でたまたま出かけた公園で、メモを見つけたのがそもそもの始まりだった。
「アル、ちょっと待って」
早く芝生でごろごろしたいアルは、リードをぐいぐい引っ張っている。チョコレート色のトイプードルの毛並みに、芝が付くのをママは凄く嫌がるけど、気持ち良さそうなんだよね。
枝に引っかかった紙きれは綺麗なオレンジ色で、風に吹かれた紅葉みたい。
少し破れているけど文字は読めた。
ドキッとして心臓が止まるかと思った。
『エミカ。僕は君を愛している。殺してしまいたいほど』
3年生の僕にも読める漢字だ。
だけど、愛はともかく殺すなんて穏やかじゃない。たとえ人違いでも、咲花ちゃんに何かあったらと心配になる。
咲花ちゃんは花が咲いたみたいな可愛い女の子だ。僕は隣の席の彼女に一目惚れだった。
僕はまず叔父の達ちゃんに相談した。
彼は探偵事務所を構えてる。
以前、迷子になった猫を保護してから、ある女優さんがご贔屓なのが自慢だ。
『仕事を選ばないのが俺の信条だからな』
達ちゃんは得意気に言う。
でも、ママとお姉ちゃんの彼の評価は散々だ。
『あんな不良のとこに行っちゃダメ! ゴロツキのロクデナシ』
ママが言った単語をそのまま伝えると、達ちゃんは深いため息をついた。
「なあ、郁。おまえの母ちゃん、実の弟に酷くねえか」
「そうだね」
僕は同情を込めて頷いた。
意味はわからないけど、褒めてないのは僕にもわかる。
「まあ、今に始まったことじゃないけどな」
僕がメモを手渡すと、達ちゃんは真顔になった。
「殺すねぇ。別にその子だとは限らないだろ」
「でも、咲花ちゃんに何かあったら、僕…」
「何だよ、やけに熱心だな」
達ちゃんにちょっといたずらっぽく笑われて、僕は慌てた。
「ははん。それは確かに一大事だ。気になるよな」
「と、取りあえず、彼女が無事ならいいんだ」
僕は恥ずかしくなって話をそらした。
「達ちゃん、暇なんでしょ」
「あのね、俺だってこう見えて忙しいの。探偵ごっこに付き合う時間はない」
「じゃあ、せめてヒント出してよ」
「そうだな。ブレーンになってもいいが、報酬は貰うぞ」
「お金取るの? 子どもから? キチク!」
「…やっぱ、お前もねーちゃんの子どもだな」
達ちゃんはがっくりとうなだれた。
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