探偵助手は愛犬とバディを組む

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次の日、僕は学校から帰ると、散歩に行くことをママに告げてアルを連れ出した。 同じ時間に同じ場所で観察すれば、何かあった時に気がつきやすい。これは達ちゃんのアドバイス。 朝と夕方は涼しくて長袖が欲しくなるけど、まだ太陽は温かくて、走ってきた僕らは汗をかくほどだ。アルも地面に寝転んで舌を出している。 手がかりはこの公園に最近来たことぐらい。 それだけじゃ雲をつかむような話だけど、まずはそこからだ。 『僕が君を守るからね』 咲花(えみか)ちゃんには心の中で誓った。 僕はベンチに座って自販機で買ったジュースを飲みながら、通りすぎる人をぼんやり眺めていた。缶が空になるとため息をついて、退屈し始めたアルに()かされるように公園を後にした。 偵察(!)を始めて3日目のことだった。 うわ 綺麗な人だな… スラッと背が高くて、顔も長い髪もとても素敵な…、男の人。 テレビで見る芸能人みたいだ。 男の僕もその美しさに目を奪われて、ふと気づくと足元のアルがいない。きょろきょろしていると、誰かの声がした。 「あれ。君はどこの子? 飼い主さんは?」 僕がはっとしてその声の方を見ると、さっきの綺麗な男の人がアルを胸に抱えて優しく話しかけていた。また首輪が外れちゃった。もう新しいのを買ってもらわなきゃね。 「すみません。僕の犬です」 「よかった。迷子かと思ったよ」 「ありがとうございます」 アルは男だからか女の人が大好きなんだけど、この人があんまり綺麗だから勘違いしたのかな。そのくらいオーラがあふれてて、僕は彼の仕草に見惚(みと)れてしまった。 「散歩?」 「はい。アルがここを気に入ったみたいで…」 「僕と一緒だね」 彼はふわっと笑った。 「家はすぐ隣なんだ。息抜きによく来てるよ」 「ここは広くて気持ちいいですね」 冬馬(とうま)さんはベンチにゆったりと腰かけた。 面食いのアルが、嬉しそうにその膝に前足を掛ける。 おい 飼い主は僕だぞ アルの手のひら返しはちょっとムカつくけど、おかげで素敵な人と知り合いになれたから、まあいいか。 「家で仕事をしてると、時々煮詰まってしまうからね」 「お(うち)でお仕事ですか」 冬馬さんは楽しそうに笑い声を上げた。 「君の考える『仕事』はスーツで会社に行くイメージだろう?」 「はい」 「僕はね、文章を書くのが仕事だよ」 「…小説とか?」 「うん。それに紀行文、旅行日記みたいなものとか頼まれれば色々」 「凄い。優雅ですね」 素敵な人は職業まで素敵なのか。 達ちゃんが聞いたらぶうぶう言いそうだ。 『どうせ、俺は(いや)しい商売だよ』 「そう? 実際の僕の姿を見たら、がっかりするんじゃないか」 「どうしてですか」 「書ける時はいいよ。(ひね)っても絞り出してもアイデアや言葉が思いつかないことだって、しょっちゅうある。イライラしながらコーヒーや煙草(たばこ)に逃げてる時なんか、ここにシワが寄ってて自分でも嫌になるよ」 冬馬さんは眉間に指を当てておかしそうに笑った。
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