36人が本棚に入れています
本棚に追加
達ちゃんも煙草を吸う。
煙たいのは嫌だけど、髪の毛や服から大人の匂いがするのは好きだ。
冬馬さんからはいい匂いしかしない。
香水でも使ってるのかな。
そういえば、あのメモの紙も煙草と香水の匂いがするって、達ちゃんが言ってたっけ。
「今はどんなものを書いてるんですか」
「ミステリーなんだけど、少年と愛犬がバディを組む探偵物語なんだ。シリーズ化して結構人気があるんだよ」
「僕とアルみたい! それに僕の叔父さんは探偵なんですよ!」
僕はつい嬉しくなって話してしまった。冬馬さんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに笑って僕に尋ねた。
「そうなんだ。じゃあ、君たちは今、何を調べてるのかな? 小さな探偵さん」
「あ、えっと…」
僕は少し迷ったけど、冬馬さんにこれまでのことを話して聞かせた。冬馬さんは時々頷きながら僕の話を真顔で聞いていた。
「なるほど。そのメモがこれか」
「はい」
冬馬さんはメモを指に挟んで、急に謎めいた笑みを浮かべた。
「ふうん。と言うことは、君は僕の秘密を知ってしまったんだね」
「え? 何のことですか」
「このメモは僕のだよ」
「えっ」
僕は驚いて冬馬さんの顔をまじまじと見た。
「で、でも、秘密なんて、そんな…」
「本になる前は僕だけの極秘情報だ。ネタバレしたらつまらないだろ? それに知らないうちに、僕の中にある欲望が反映されているかもしれないし」
それは そうだけど
これは単なるメモでしょ
「秘かに誰かを殺したいって思ってるのかも」
「そんな…」
穏やかだった彼の瞳が鋭く光を放ったように見えた。
「すみません。まさか、小説家さんのメモだったなんて」
「あはは。ごめん、冗談だよ。怖がらせちゃったね」
僕はほっと息をついた。
「そうだ。よかったら僕の本、読んでみるかい?」
「いいんですか。ぜひ!」
色んなことがいっぺんに起きて、さっきから僕はわくわくしっぱなしだ。アルも嬉しそうに足元で飛びはねた。
冬馬さんの家は、本当に公園の隣だった。
少し古びた洋館で、レンガの壁には蔦が張り付いている。今は綺麗に見えるけど、夜中はお化けが出そうで不気味かもしれない。
「今は僕一人なんだ。遠慮しないで」
重いガラス張りの扉をぐいっと開けて、冬馬さんは僕とアルを中に入れてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!