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「それに彩乃(あやの)さ。最近指輪してないよな?なんなの?」 え?お前が言う? 自分のことをでっかい棚にあげてよくもまあそんなことを。僕のお腹が怒りでカッと熱くなる。こいつめ。なんか痛い目みろ! 「痛っ」 と思ったら、初樹(はつき)がふくらはぎを押さえてしゃがみ込んだ。 「え?どうしたの急に」 「なんか……足つった」 「今?」 本当だよ。 別に走ったわけでもないのに。バチでも当たったのかな?変なやつ。 「で?なんで彩乃(あやの)まで指輪しないの?あれは夫婦の絆じゃなかったの?」 だからお前がいうか? 「あ、あれは。私もその、太ってむくんできつくなっちゃったから」 それはわかりやすい嘘だ。 彩乃(あやの)ちゃんの体型は全然変わってない。 「なんだよそれ。仕返しのつもり?」 「仕返し?そんなわけ……」 「もういい。まだ仕事残ってるし。先寝てろよ」 「ちょっと待っ」 初樹(はつき)は一方的に言うと仕事部屋へ入って乱暴に扉を閉めてしまった。 彩乃(あやの)ちゃんはこちらに背を向けたままだけど、かすかに鼻をすする音がした。自分の奥さんを泣かせるなんて。あいつ、もしかして彩乃ちゃんのことそんなに好きじゃなかったりするのか? そうだとしたら......絶対許せない。
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