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「忘れてて俺、会社の重役との食事会入れちゃってた」 「そっ……か」 なんだそれ? どうして忘れるんだよ? ほんのり赤かった彩乃(あやの)ちゃんの頬が青白くなっていく。 ああ、見ていられないよ。 「ごめん。店にはキャンセルの電話しとくから」 「いいよ、私がしておくよ。ほら、もう出る時間でしょ?」 彩乃(あやの)ちゃんに促され、初樹(はつき)は腕時計に目をやってやばいと慌てている。 前は一緒に家を出てたのに。そういえば出勤時間まで早くなってるじゃないか。 「ありがとう。彩乃(あやの)も気を付けてな」 「私の職場はすぐそこだから。大丈夫だよ」 慌ただしく玄関のドアが閉まる音がした。 まもなく彩乃(あやの)ちゃんも僕の耳から指輪をとって出勤していく。 左耳はやっぱり今日も重たいままだった。
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