秋の夕べと僕の恋

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 一世一代の告白をした。ついこの夏のことだ。  二年を超える片思いに区切りをつけ、それでどうにか凌と付き合うことになった。だけど元々同じゼミで履修科目も同じで一緒に居ることが多かったので、傍目からはあまり変わって見えないだろうと思う。  仲の良い友だちだったときと両思いの今とで違うのは、休みの日に会う頻度が増えたことくらいだ。  つまり、デートはしょっちゅうしている。でも、キスは、付き合う前に酔った勢いでしたのが最後でそれ以降一度もしていなかった。  どういうタイミングですればいいのか、なまじ友だちづきあいが長かったせいで見定められなくなっている。  この日はレンタカーでドライブし、晴れ渡る青空の下、箱根の山から瑠璃色の海を眺めた。紅葉にはまだ少し早かったからもう一回来ようと約束して、車内で他愛のない話をしたり歌ったり、ただそれだけでもとても楽しかった。同じ物をみて笑い合うたびに、凌のことを好きだなあと思う。  本音を言えば、せっかく箱根まで足を伸ばしたのだから温泉に行きたかったけれど、キスにも踏み切れない自分にはハードルが高すぎて言い出しかね、結局今日もまた健全な日帰りデートに終始したのだった。  その帰り道、飲み物を買おうと二人はコンビニに立ち寄った。  「11月11日はポッキー&プリッツの日」というポップが店内に目立つように張り出され、お菓子売り場の棚が様々な種類のポッキーやプリッツで埋め尽くされていた。  ポッキーだけでも、昔からある普通のポッキーに、極細タイプ、ブラックチョコレート仕様、とろけるタイプ、クラッシュアーモンド、カカオ増量等々多種多様で、ここまでくるといっそ壮観だった。思わず棚の前で、二人並んで足を止めた。 「そういや、ポッキーってフランスではミカドっていう名前なんだよ」 「ミカド? まじで?」  凌がブルーのカラコンに光る瞳をみひらいてこっちを見る。  ちょっと切れ上がった眼が猫みたいで可愛い。散々見てるのにちっとも見飽きなくて、つい、顔がほころんでしまう。 「ほんとほんと」 「じゃあパリではポッキーゲームのこと、ミカドゲームっていうの?」 「さあどうだろ。でもなんか、あれだね、物騒な感じがするね」  答えれば、凌の眉が寄り、さも意外という風に首を傾げた。 「物騒?」 「なんか王様ゲームみたいじゃない?」  ミカドはエンペラー、皇帝だ。  ミカドゲームと聞けば、やっぱり脳内では丸くなってくじを引き、ミカドになった人が1番と2番でキスをしろ、とかよく分からない命令をするあの王様ゲームと結びついてしまう。  その命令のなにが面白いのかさっぱり分からないけど。 「なにその発想。だいたい王様ゲームなんて本当にやってる人見たことある?」 「ないねえ」  命令する方もされる方も、ちっとも楽しくなさそうだ。  キスなんて見るより自分がする方がいいし、するなら好きな人としたいし。  そしてつい、凌の唇に目をやった。ああ、キスしたい。 「ポッキーゲームしよう。ポッキー買おう」 「は? なんでいきなり?」 「凌が自分でポッキーゲームとか言い出したんだよ?」 「いや、そうだけど。でも、……でも、ポッキーはチョコだからいやだ」  そういえばチョコレート苦手って言ってたっけ。  ん? いやなのはチョコだからなの? チョコじゃなければいいの? 「じゃプリッツは?」 「口が塩塩になるじゃん」  塩塩ってなんだよ。  俺はトマトプリッツを手に取った。 「あ、三浦見て見て。これポッキーの断面がハートの形してるよ」  凌が取って見せてくれたのはいちごポッキーだ。  箱自体がパステルピンクでポッキーもピンク色。  同じことを女の子がしたら、あざとい!と思うだろうに、相手が凌だとただただ可愛いのはなんなんだろう。 「俺、これ買うー」 「え、待って、チョコはいやだってさっき」 「いちごポッキーはチョコじゃないよ」 「いや、チョコでしょ」 「カカオマス入ってないからチョコじゃない」  なにこの会話。  謎理論に抗弁する気も無く、気が変わらないうちにセルフレジに引っ張っていく。  こっちを向いて、いちごポッキーをくわえている凌を想像したら、なんかもう、ポッキーをがつがつ囓ってそのまま唇もいただきますしたくてたまらなくなった。 「三浦、悪い顔してる」 「してないでしょ」 「なんでこんな可愛い食べ物に、そんな獰猛な顔ができるの」 「してないって」 「……してる」  二台並んでいるセルフレジを隣同士で使って、バーコードを読み込ませながら、俺は飲み物を買うために入店したことを思い出し、レジ横のケースから適当にお茶を取り出した。 「ねえ、あのさ」  凌が電子マネーで精算しながら、横目でちらっとこっちを見た。 「俺、ポッキー無くても別にいいんだけど」 「……えっ」  すねるみたいに言うのにどぎまぎする。  それって、それってどういう意味? そういう意味?  心の動揺がそのまま指に伝わったのか、手にしたバーコードリーダーから重複読み取りを知らせるエラー音が店内に響いた。
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