8.イケメンの定義

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「はい、お給料」 バイトの終わり際、真実のお母さんが茶封筒をぼくに差し出した。 ぼくはびっくりして真実を見る。 お母さんの隣で、拗ねた顔が、早くもらえとばかりに頷いた。 「ありがとう、ございます」 ぼくは震える手で初給料を受け取った。 「それで何を買うんだい」 お父さんに尋ねられたから、ぼくは抹茶シフォンが食べたいと即答した。 店主であるお父さんは「小さな切れ端に代金は要らないよ」と気遣ってくれたけれど、ぼくはどうしても茶封筒から支払うと言って押し切った。 そして、すぐにイートインスペースでいただいた。 濃厚な生クリームが、じゅわあと舌の上でとろけた。 渋みの効いた抹茶の風味が、口いっぱいに広がる。 疲れでくたくたの体に、やさしい甘みが染み込んだ。 やっぱり、このおいしさには耐えられなかった。 幸せを噛みしめるぼくを見て、お父さんも、お母さんも、真実も、笑った。 ぼくはイケメンの定義を知った。 イケメンとは、「おいしい」とちゃんと伝えられる人をいうんだ。 ぼくがもっとバイトを頑張って、堂々と笑えるようになったら。 また真実に、この気持ちを伝えようと思う。 (了)
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