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「はい、お給料」
バイトの終わり際、真実のお母さんが茶封筒をぼくに差し出した。
ぼくはびっくりして真実を見る。
お母さんの隣で、拗ねた顔が、早くもらえとばかりに頷いた。
「ありがとう、ございます」
ぼくは震える手で初給料を受け取った。
「それで何を買うんだい」
お父さんに尋ねられたから、ぼくは抹茶シフォンが食べたいと即答した。
店主であるお父さんは「小さな切れ端に代金は要らないよ」と気遣ってくれたけれど、ぼくはどうしても茶封筒から支払うと言って押し切った。
そして、すぐにイートインスペースでいただいた。
濃厚な生クリームが、じゅわあと舌の上でとろけた。
渋みの効いた抹茶の風味が、口いっぱいに広がる。
疲れでくたくたの体に、やさしい甘みが染み込んだ。
やっぱり、このおいしさには耐えられなかった。
幸せを噛みしめるぼくを見て、お父さんも、お母さんも、真実も、笑った。
ぼくはイケメンの定義を知った。
イケメンとは、「おいしい」とちゃんと伝えられる人をいうんだ。
ぼくがもっとバイトを頑張って、堂々と笑えるようになったら。
また真実に、この気持ちを伝えようと思う。
(了)
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