2.25%の人間

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2.25%の人間

翌朝、いつもと同じように教室に行く。 何も知らないみんなは、ぼくを見てにっこり笑う。 「おはよう、(まこと)くん」 「うん、おはよう」 ぼくは傷心を隠しながらおはようをコピー&ペーストして、平等に振りまいていく。 少女漫画の冒頭は、イケメンが主人公の近くを通り過ぎる場面から始まるものだ。 さあっと爽やかな風が吹く。 みんなの目が、ぼくに釘付けになる。 ぼくは自分の席に座ったら、ワイヤレスイヤホンを装着する。 そうすると、女子が近寄ってくると決まってる。 「誠くん、何聴いてるの?」 「ん、内緒」 それから、冗談だよと言い直してイヤホンの片側を貸してやるんだ。 そうすると100%の女子がキュンとする(ぼく調べ)。 洋楽が流れているのを知って、その子は頬を赤らめる。 誠くんはすごいね、大人っぽいねと言ってくれる。 本当は英語の歌詞なんか理解できてないのに。 女子はぼくの英語力なんてどうでもいいんだ。 ぼくと話せるなら、それだけで満足なんだ。 だってぼくはイケメンだから。 そのとき、窓際の太っちょの男子がくしゃみした。 「眩しいとくしゃみが出ちゃうんだよね」 そいつは隣の生徒にごめんと言った。 ぼくはいらっとして、音楽を止めた。 光くしゃみ反射をもつ人間が25%なら、40人のクラスでは10人いるということ。 だけど少数派というのは、ぼくみたいなイケメンとか、秀才とか、いわゆるスマートな人間に与えられる称号であって、地味な太っちょまで含めていいものじゃない。 ぼくは誰にも興味がない。 だから彼の名前は知らない。 幼い頃に読んだ、あかがね色の絹で装丁された本を思い出す。 「はてしない物語」の主人公、バスチアン・バルタザール・ブックスも、こういう地味な人間だった。 とりあえず、彼をバスチアンと呼ぶことにした。
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