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3.一秒の笑顔
よく晴れた週末、ぼくは都内の海浜公園にいた。
12月に発行されるファッション誌の撮影に臨む。
今回の企画テーマは「2023年の"かっこいい"を振り返る」。
ビーチに遊歩道、展望デッキ。
周辺のデートスポットを歩く恋人たちが視界に入ると胸が痛んだ。
けれど、これは仕事だから。
暗い顔を見せるわけにはいかない。
ロケバスの中で髪をセットし、メイクをしてもらう。
夏のページを担当するぼくは、素早く高級ブランドのリネンシャツに着替える。
「撮影、始めます」
フォトグラファーが一眼レフカメラを構えた。
ぼくがベンチでアイスを食べると、バニラの甘みが舌の上に乗っかった。
おいしい。だけど、寒い。とにかく寒い。
鳥肌が立つ。ああ、顔が筋肉痛になりそうだ。
でもぼくはイケメンだから。
1秒ごとにポーズを切り替えながら、爽やかな笑顔を維持する。
次に、先日の「キス特集」でご一緒した女性モデルが隣に座った。
今度は夏のデートを再現しようというわけだ。
「誠くん、今日もかっこいいね」
はにかむ女性に、ぼくは「そんなことないよ」と答えた。
「ぼくの方こそ、きみに恋しちゃいそう」
甘ったるい言葉を吐くのは得意だった。
ぼくと女性は肩の力を抜いて、笑い合った。
日焼け止めクリームを鼻に塗り合ったり、一緒に空に手をかざしたり(くしゃみが何度も出た)。
子リスを思わせるかわいい笑顔や仕草が、幼い頃の真実を思い出させた。
ぼくがあの事件を起こさなければ、真実とは今もこんなふうに笑い合っていたかもしれない。
この15センチが近づいて、いつかまた、こんな日が来たらいいのに。
ぼくの失恋を知らないフォトグラファーは、ポーズを取るたび「いいね」と感心してくれた。
OKが出ると、ぼくらはパソコンのモニターで写真を並べてチェックした。
ぼくは自分の表情が滑稽に思えて仕方なかった。
おいしそうな表情をつくるのも、ラブラブを演じるのも、上手すぎた。
ぼくはイケメンだから。
ぼくの笑顔は、他人のものなんだ。
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