17人が本棚に入れています
本棚に追加
1.15センチの恋
「ごめん、無理」
顔面国宝のぼくが、あっけなく振られた。
相手は幼馴染の真実。
放課後の昇降口に呼び出して、きみは特別だと告げる。
シチュエーションは完璧なはずだった。
「あんたなんか大嫌い」
彼女はきっぱりと言った。
声は敵意に満ちていて、ぼくを拒絶していた。
なぜ彼女を意識したのか。
遡ること、ひと月前。
ファッション誌でモデルをしているぼくは、「キスがちょうどいい身長差」という特集ページに抜擢された。
相手役を演じてくれた女性は、ぼくの身長に対して理想の15センチ差。
可憐ですごくかわいらしい人だった。
だけど肩を引き寄せた瞬間、思い浮かんだのは気が強い真実の怒り顔だった。
振られたその日も、真実は怒りと軽蔑を込めた目でぼくを見ていた。
真実は、ぼくを正しく傷付けてくれる。
理想の15センチは、とてつもなく遠かった。
この世には2種類の人間がいる。
太陽を見た瞬間にくしゃみが出る人と、出ない人。
ぼくは前者だ。
研究者が書いたインターネットサイトによると、これは「光くしゃみ反射」といい、日本人の約25%しかもっていない生理的な反射だそうだ。
つまり、ぼくは25%の人間ということだ。
少数派というのは、実に気持ちがいい。
「ほかの人とは違う」ってことなんだから。
「個性がある」ってことなんだから。
顔面国宝と呼ばれるぼくにふさわしい言葉だ。
それなのにぼくは、振られてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!