3人が本棚に入れています
本棚に追加
違和感
たまに会う母の様子がおかしい事には、なんとなく気づいていた。
言動というか、たまに一人で見えない誰かと話しているような感じだった。
おかしいと思うのに、おかしい状態を認めたくない麻耶は、見て見ぬふりをした。
ある日、近所のおばさんが数人で家にやってきた。
すごく言いづらそうだ。
「あのね、気を悪くしないでほしいんだけど…」
一人のおばさんが、申し訳無さそうに話しだした。
「お母さん、様子が変じゃない?病院で見てもらったほうがいいと思って…」
その言葉を聞いた時、麻耶は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
周りから見てもおかしいと思われているこの状況は、母の事を心配する気持ちよりも、恥ずかしい気持ちが強かった。
私が一人で暮らす家の状況を心配して、おかずをくれたり声をかけてくれているご近所のお母さん達。
きっと、私が哀れで可哀想で、その気持ちが強いだろう…。
おばさん達の表情で、心苦しい思いに駆られた。
『一人でも大丈夫』
その精神で生きてきた私には、母の事を一人でなんとかしなければ…と思っていた。
『でも…、お母さんには恋人が…』
母の今の恋人の浜田修(ハマダオサム)とも、話さなくてはいけなくなった事実に、心は重くなった。
ほとんど会ったことのない修は、私にとってはすごく遠い他人だ。
奥さんを亡くして何年か立っていると聞いている。
嫁いだ娘が1人いるらしい。
母は、修の娘と会うこともあるそうだ。
けれど、私の事は娘のように思いやってくれる事もなく、私の方も慕うこともなく話さない関係だった。
…なのに。
沈んだ気持ちのまま、連絡先として聞いていた、修の電話番号に初めて電話をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!