大切な人

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大切な人

 家から車で15分の所にあるカフェに来た麻耶。  というのも…、 「いらっしゃいませ〜!あっ、麻耶!いらっしゃい」  笑顔で出迎えてくれた、友達の栞(シオリ)。  母親の事も話してる唯一の友達だ。  「…泣いた?なんかあった?」  目ざとい栞の言葉に、 「ちょっとね、お母さんの事でね…」  そう言って、言葉を濁す麻耶に、 「じゃあ、美味しいもの食べないとだね」  そう笑って、栞は席を案内してくれた。  詮索してこない栞がありがたい。  麻耶の性格をわかった上で、何も言わずにそばにいてくれる。  そして… 「麻耶ちゃん、いらっしゃい」  もう一人の大切な人。  少しタレ目の優しい顔と性格で、太陽みたいな温かな人。  「お?ちょっと元気ない??」  目ざとさも栞と同等な彼は、栞の恋人の海斗(カイト)だ。  私は、この二人が見つめ合う姿が大好きだ。  すごく想い合ってるのが伝わってくる。  …私には、そんな相手はいないけど。  だけどね、二人を見るだけで、自分も少しだけ幸せになれる気がするんだ。  こんな私でも…。  栞に秘密にしている事がある。  少し前に、カフェに来た麻耶を、海斗が呼び止めた。  そして、人差し指を立てて内緒の合図をしながら手紙を渡された。  「読んで」  ニコッと笑って去る姿に、なんの手紙か分からなくて、少しドキドキしながら、急いでお店のトイレに駆け込んだ。  開いたその手紙の中には、 『麻耶ちゃんへ   突然、ごめんね。  麻耶ちゃんも大変なのに、  いつも栞のこと、支えてくれてありがとね。  麻耶ちゃんが栞のそばに居てくれて、俺もすご  く感謝してます!  あいつ、不器用だからきっと心配だよね。  俺も麻耶ちゃんが安心して任せられるような男  になるから、これからも仲良くしてね。』  何度も見返して、何度も見返して、すごく嬉しかった。  こんなに愛されてる栞を思うと、私まで幸せになれる。  こんなに真っ直ぐに人を愛せる海斗の存在が嬉しくて、すごく嬉しくて、手紙を両手で胸に抱き締めた。  栞の家庭は、父親が強くて栞とは喧嘩ばかりだと聞いていた。  少し前に、喧嘩して帰りたくないと話してくれた事もあった。  その事が頭の中で思い出された。  気持ちを落ち着けて席に着くと、海斗が現れた。  麻耶が微笑んで、指で丸の合図をした。  すると、海斗がお水の入ったコップを置きながら、 「俺がいない時、栞の事頼むな」  と笑って麻耶に伝えると、 「私がいない時、栞頼むね」  そう笑い返した。  そんな、私達の様子を、離れた所で栞が不思議そうにしていた。  栞の視線に気付き、二人で笑って栞にピースサインを送ると、呆れた顔をした後に、笑って栞がピースサインをした。  これが少し前の出来事だ。  母の事を、一時的にだけでも忘れさせてくれる幸せな時間だった。  
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