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寄り添う
仕事も休んでばかりいられない。
…母親も気がかりだ…。
栞の家に5日間泊まり込み、今は仕事の後、少し栞の様子を見て家に帰る生活に変わった。
仕事をしていても、家に帰っても、考えるのは、栞のことばかり。
「私は、大丈夫だよ」
そう言って笑う栞の顔は、会う度いつも腫れた目をしていた。
目の下には隈があり、前よりも痩せた顔で、大丈夫という言葉を聞くたびに、余計に心配になった。
麻耶は、電気を消した自分の部屋で、薄暗い月明かりの中、前に海斗からもらった手紙を見返した。
『約束…、したのに…』
泣きたくないのに、涙が止まらなくなった。
幸せそうな笑顔で、
『俺がいない時、栞頼むな』
そう言ったあの日の海斗の事が思い出される。
『何ができるんだろう…』
『何がしてあげられるんだろう…、栞の為に』
上手く言葉で寄り添う事の出来ない麻耶には、どんな言葉を伝えれば栞が救われるのか、支えになるのか、分からなかった。
麻耶は、夜の海に行かなくなっていた。
『生きなきゃ』
強くそう思った。
誰かを失う怖さを、失った時にどれだけ傷つくのかを、ちゃんと知った気がする。
『私が人生を諦めるのは、ただの逃げだ』
母親の事で、心がしんどくなる度、栞の泣いた顔や海斗の笑顔を思い出した。
そして、心の中でいつも思っていた。
『栞…、生きていてくれて、ありがとう』
ただ、この言葉だけを、心の中で繰り返していた。
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