最後のひと葉

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今朝、窓を開けたら、 庭の柿の木が丸裸になっていた。 ああ、 ついに逝ったのだなと思った。 瑞々しい若葉色から、 はっとする程の紅色(くれないいろ)へ。 毎日少しずつ色づいていくのを、 ここから見ているうちに、 恋してるのかな、 なんて思った。 ある日突然恋に落ちて、 自分の気持ちに気がついて、 頬や耳がぱっと赤くなって、 手の指先、 足の爪先までもが、 熱くなって、 痺れるようになって…… そうなったらもう誰にも止められない。 自分でも自分を抑えられない。 焦がれ焦がれて、 我が身を真紅に染めあげて、 その、あまりの熱さに、 ひと葉、またひと葉と、 我が身を削っていったのかな。 昨日まではまだ数枚残っていたのに。 いまはもう、 何ひとつ纏っていないその姿に、 胸が痛んだ。 その恋は成就したのかな。 それとも玉砕したのかな。 願わくばそれが、 甘い甘い、恋の実りの熱であってほしい。 そんなことを思いながら、 枯れ木の根元に残されたそれに、 視線をおくる。 燃えるように真っ赤な、 最後のひと葉に。
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