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1. 転校生
「戌井琴子です。よろしくお願いします」
琴子ちゃんが転校してきたのは、小四の秋だった。
担任の先生の指示で、琴子ちゃんは空いていた私の隣の席に座った。先生から、「浅野、いろいろ教えてあげて」と頼まれた。
「浅野詩織です。よろしくね」
私が笑顔で声をかけると、琴子ちゃんは少しびっくりしたような顔をしてから、「戌井琴子です。よろしく」と恥ずかしそうに微笑んだ。
琴子ちゃんはおとなしい女の子だったが、私達はすぐに仲良くなった。
琴子ちゃんの髪の毛はぼさぼさで、着ている洋服も色褪せた粗末なものだった。持っている文房具も使い古されたもので、子供心にお金がない家なのかなと思ったが、仲良くなれば気にならなかった。
クラスでは、音楽会の合唱練習が始まった。誰がピアノ伴奏するか、オーディションで決めると先生が言った。
私と田中瞳ちゃんが立候補して、クラスの皆の前で課題曲を披露した。担任の先生と音楽の先生が審査員をして、瞳ちゃんに決まった。
私は最近レッスンをさぼりがちで指がうまく動かなかったし、瞳ちゃんの方が上手なのはわかっていたので、選ばれなくても納得した。
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