6. 犬神

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6. 犬神

「犬神かな」  マサさんが言った。 「犬神?」  私は繰り返す。  犬神を信仰すると犬神がその人に憑き、その人の願いを察して事を起こしたり、富を与えてくれたりするという。けれども憑かれた人は段々嫉妬深くなり、感情を抑えられなくなるらしい。 「犬神は壺や箪笥の中、床下で飼われているんだ」  あの黒い壺を思い出した。 「家族の人数だけ、犬神はいる」  戌井家は三人家族だから、三匹いるんだ。 「どうしたら呪いを避けられる?」  兄が聞く。 「そりゃ昔から決まってるだろ。僕に任せて」  マサさんは笑った。  その夜、私は眠れなかった。昴太のことが心配だった。  それでも日付が変わり、うとうとし始めた頃、どこからか犬の鳴き声が聞こえてきた。夢の中で、遠くから三匹の犬を従えた琴子ちゃんがこちらに歩いてくるのが見えた。 (夢じゃない!)  私は気づく。だって、私は目を開けていた。  ぎいぃっと私の部屋のドアが開くと、獣の匂いが部屋に充満した。獣の荒い息遣い。そして、近寄る足音。 「詩織ちゃん。一緒に行こう」  囁く琴子ちゃん。  私はベッドから起き上がり、マサさんからもらったお札を琴子ちゃんの目の前に突き出した。 「〇×△×□ーッ」  犬なのか琴子ちゃんなのか、苦し気な悲鳴が聞こえ、その瞬間琴子ちゃんも犬も消えてなくなった。
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