6. 犬神

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 朝になり、兄に昨夜のことを話した。 「マサさんって何者?」  私が聞いた。 「あいつの名前、猿田彦将(さるたひこまさ)っていって、実家が猿の神様を祀る神社なんだ」  本名が大嫌いで、本名で呼ぶと怒るから気をつけろと兄は笑う。 「犬と猿は“犬猿の仲”って言うだろ。マサの実家の神社には、犬神に憑かれた人が助けを求めて大勢やって来るんだ」  あのお札は、マサさんのお父さんが書いてくれたものだった。 「無事朝を迎えられたら、詩織も昴太ももう大丈夫ってマサは言ってたよ」  そう言われて私は安心した。  その日、琴子ちゃんは学校を休んだ。 「戌井は家庭の事情で転校しました」  ホームルームで先生が話をし、突然のことに皆ざわついた。  琴子ちゃんの家は商売が成功して豊かになり、家を建て替えたりしていたが、急にうまくいかなくなって夜逃げしたーーそんな噂が流れた。  それ以来、琴子ちゃんの行方はわからなかった。  あの家の押し入れには今もあの黒い壺があるのだろうか。  それは誰もわからない。 <了>
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