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「だってもうとっくに限界じゃないか。我慢した先に何がある?」
質問に答える前に唇を塞がれる。駄目だと思う心とは裏腹に、触れた部分から熱くなっていく。
誠に疑いを持ってから、不感になっていた体が、辻村の手で忘れていた感覚を思い出していく。
「は……」
「好きだよ、沙羅。沙羅が婚約したって人づてに聞いた時、諦めないで奪いにいけばよかった」
どういうことなのか、聞く余裕もない。
低く甘い囁きは、現実の辛さから沙羅を飛ばしてくれる。彼をただの逃げ場にしたくはない。けれど、抗えない自分がいる。
「もう十分耐えただろう。今は傷ついた沙羅を甘やかしたい」
抱き上げられ、寝室のベッドにおろされた。すでに夫婦仲は破綻してはいても、一線を越えるのは怖い。
「辻村さん、私」
「責任は俺が取るよ」
押し倒され、残っていた理性もなくなっていく。
人間なら弱っている時、辛い時優しくしてくれて、そばにいてくれる人に惹かれてしまう。誠も同じだったのかもしれない。
惹かれる心をごまかして、一線を超えずにいたのは倫理観のためではない。ただ自分の恋心がコントロールできなくなるのが怖かったからだ。
「そんなつもりじゃなかったの」
「本当に二度と会わないつもりなら、ここに来るべきじゃなかった」
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