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食べ終わり、ごちそうさまと箸を置いて、誠は出勤の準備をする。
「そう。また接待?」
「うん。悪いね。大きい仕事が取れそうなんだ」
大手通信会社で営業課長をしている誠は、普段から激務で帰りが遅い。最近は特に連絡がなく午前様になることもたびたびあり、夕飯を一人で食べることには慣れていた。
「忙しいところ悪いんだけど……」
「なに?」
聞かれて、一瞬言葉に詰まる。
「あ、ううん。何でもない。ちょっと余裕がある時家具を動かしてほしくて」
「土曜日にやるよ」
咄嗟に嘘をついた。本当はそんなことを頼みたいわけではなかった。
「ありがとう」
一見何もない平穏で仲睦まじい夫婦。それでも心に隙間風が吹くこともある。人には言えない悩みもある。
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