平穏な日々

2/2
前へ
/197ページ
次へ
 食べ終わり、ごちそうさまと箸を置いて、誠は出勤の準備をする。 「そう。また接待?」 「うん。悪いね。大きい仕事が取れそうなんだ」  大手通信会社で営業課長をしている誠は、普段から激務で帰りが遅い。最近は特に連絡がなく午前様になることもたびたびあり、夕飯を一人で食べることには慣れていた。 「忙しいところ悪いんだけど……」 「なに?」  聞かれて、一瞬言葉に詰まる。 「あ、ううん。何でもない。ちょっと余裕がある時家具を動かしてほしくて」 「土曜日にやるよ」  咄嗟に嘘をついた。本当はそんなことを頼みたいわけではなかった。 「ありがとう」  一見何もない平穏で仲睦まじい夫婦。それでも心に隙間風が吹くこともある。人には言えない悩みもある。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1802人が本棚に入れています
本棚に追加