企画『貴方が担当した小説は』

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掃除戦隊物語『ふたりのその後』             にょへ子作 (もっちーこと、望月紫晴視点) ************ 僕が働くパティスリーでは クリスマスケーキを約千台作るため、 毎年ハロウィンが終わると同時に ケーキの作成が始まる。 二足の草鞋で活動し続ける クリーンレンジャーの仕事からも 遠のいてしまうのだった。 ちなみに、この日も3時間残業。 くたくたになりながら、 光希と暮らすマンションに到着する。 (光希は、きょうも トレーニングに行ったのかな) 僕の恋人・光希もまた、 クリーンレンジャーの一員。 会社を定時で上がったあとは クリーンレンジャーの拠点に足を運び 自主トレに励む事も多かった。 といっても、 緊急出動の要請でもない限り、 この時間帯には帰宅して ご飯を作っているはず。 普段は阿吽の呼吸ってノリで バランス良く家事を分担しているけど、 この時期は光希がほぼ全てを引き受け、 僕が帰宅するまでに温かいご飯を 用意してくれていた。 (今度の休みには、 光希の好きなおかずを作ってあげよ…) ついでに、りんごのコンポートも作ろう。 シャキッとしたリンゴを フニャフニャのトロトロに温めた料理は 僕たちのお気に入りだから……。 「みーちゃんただいまぁ…。……ん?」 あくびをしながら玄関に入ると、 香ばしい匂いが漂っている。 もしかして、きょうのおかずは……。 「おかえり。もっちー」 リビングと廊下を隔てるドアが開き、 真っ直ぐな視線に出迎えられる。 「いい匂いだね。…コレ、キノコの匂い?」 「ご名答。 今からグラタン焼き始めるから 手ェ洗っといで」 「グラタンかァ!楽しみーっ」 そそくさと洗面所で 手洗いうがいを済ませて、 リビングへと向かった。 光希はキッチンに立ち、 使いきれないキノコを保存するため 手で引き裂いていた。 トレーニング帰りに買い出しをして、 そのまま食事の支度を始めたのだろう、 スーツの上着とネクタイを外した状態で エプロンを身につけている。 (ああこの腕。好きだなァ……) 肘までまくり上げた袖から延びる、 逞しい前腕。 視界に入った瞬間、その腕で きつく抱かれたときの記憶を 掘り起こしてしまいそうに――――。 (…じゃなくて!僕が光希を 抱き締めてあげるのッ) 背後から、作業の邪魔にならないように 覆いかぶさり、髪の匂いを吸い込む。 「ねえコレ、何のキノコ?」 調理台には見た事のないキノコが 置かれている。 「ああコレ、 縁結びキノコっていうんだって。 シュートがくれたんだ」 「はアァ!!?アイツがァ?」 「ははっ。もっちー露骨過ぎ」 シュートことダストシュートは、 クリーンレンジャー海外支部から 研修に来ている隊員。 悪いヤツじゃないけど、 世話好きな光希にすっかり 懐いている事だけは気に食わない…。 「だあっってさァー! 縁結びキノコなんて怪しいじゃん! ナニが目的でみーちゃんに 食べさせたいのかわかったモンじゃ…」 「でもシュート、 俺たち2人にって言ってたぞ?」 「エ?そうなの?」 「2人に温まってほしい。って」 (なァンだ。いいトコあるじゃん) 光希の調理中にこっそり このキノコについて調べてみると、 『デレ茸』という別名もあるのだとか…。 最近残業続きで、 きょうもご飯食べてお風呂入ったら 爆睡しそうだなーって思ってたけど、 ベッドの上でだけ見せる 可愛い光希に癒されちゃおっかな―――。
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